鈍く輝く金属の器を、木のバチで打つ。波打つことなく、電子音よろしくまっすぐ伸びる音は、耳を澄ませても余韻がいつ消えたのかわからず、どこかでずっと鳴り続けているような気さえする。
創業190年余り、祭りや寺社、家庭で使われる鳴物神仏具を代々専門とする南條工房。そこで作られる仏具のおりんは、銅に大量の錫(すず)を混ぜた「佐波理(さはり)」を素材とする。古くは正倉院宝物にも用いられた合金で、それを薪窯で焼き固めた鋳型に流し込む「焼型鋳造法」は、日本古来の伝統的な製法だ。
6月半ば、京都府宇治市の工房へ鋳造を見に行った。炎が噴き上がる炉で溶かされマグマのようになった佐波理を、地面に並べた鋳型に順番に注いでいく。冷えて固まったら鋳型を割って中身を取り出し、熱処理をして、形を削り整える作業に移る。鋳型の原料の土をこねるところから約2カ月の手間暇をかけて完成したおりんも、音が少しでも揺らげばやり直しとなり、再び炉に投げ入れられる運命だ。
そんな厳しい耳を持つ職人、7代目の南條和哉さん(43)は元料理人。19年前、当時交際中だった先代の娘・南條由希子さん(42)から家業の話を聞き、軽い気持ちでアルバイトから始めた。結婚して伝統を継いだ今も、一番好きなのは炉の火加減を操る作業。気候にも左右される繊細な火と向き合う時間は、料理にも通じる。
価値観やライフスタイルが多…