至近距離の攻防 香取慎吾、車いすフェンシングに挑戦

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 朝日新聞パラリンピック・スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんがさまざまなパラ競技に挑戦する「慎吾とゆくパラロード」。今回は、車いすフェンシングの加納慎太郎選手(37)と対談し、競技も体験しました。フェンシングも剣道もしたことがないという香取さんでしたが、役者として刀を握ってきた経験が、思わぬところで生きました。

 《近すぎじゃない!?》

 フェンシング用の車いすに座り、加納選手と向き合った香取さんは驚いた声をあげた。腕を伸ばせば剣先が届く距離に、いすは固定されている。

 《この狭い中で、どんな攻防が生まれるんだろう。》

 香取さんは不思議がった。

 《前に行くと見せかけて後ろにのけぞったり、始めの合図の前に、本当は攻めようとしている方向と違う方向に剣先を向けておいたり。かけひきが醍醐(だいご)味です。やってみましょうか。》

 加納選手が言った。

 今回は上半身を突けば得点になるエペ種目を体験することに。3分以内に5点先取した方が勝つ特別ルール。仏語のかけ声「プレ、アレ」で始まった。

 《ちょっと加納選手がのけぞるだけで、「突けない感」が出てくる。こっちが前に出すぎると、隙だらけになって突かれるし。怖い。》

 香取さんは善戦したが、4―5で惜敗。終了と同時に叫んだ。

 《面白い。もう一回!》

 急きょ始まった第2戦。コツをつかんだ香取さんが4―2と先行したが、加納選手が逆転勝利した。

 《あぶねー。負けるところだった。》

 思わず叫んだ加納選手は、苦笑いしながら続けた。

 《香取さんの構えた時のオーラがすごいです。眼力も強くて、不動明王みたい。》

 香取さんは言った。

 《剣道やスポーツはやったことがないけれど、ドラマ「新選組!」では局長の近藤勇をやったし、映画座頭市 THE LAST」と殺陣の経験はたくさんある。仕事でやってきたことが、生きたところがあるのかも。殺陣は踊りと一緒だと僕は思っている。覚えも早かった。》

 加納選手はうなずいた。

 《僕たちも攻撃のパターンを習う時に、「タンタンタタン」とかリズムをとりながら練習しますよ。》

 香取さんの生きる世界と加納選手の世界がつながった。

 《この競技は、やったほうが楽しい。どうしたらこの感じが伝わるかな。》

 これまで経験してきた数々のパラ競技に、香取さんは思いを巡らせた。

 《感覚が近いのはボッチャ。あれも体験したら、みんなが楽しいって感じてくれると思った。だから、僕は「ボッチャバー」を各地に作ったほうがいいと思っている。車いすフェンシングもバーの一角に体験できるところを作って、みんなで軽くお酒を飲みながらやるのはどう?》

 この日訪れた体育館では、車いすを使う代わりに、いすに座って練習を積んでいる人がいた。

 加納選手は、意外な発想に笑顔になった。

 《バーの一角で剣を突き合うって、海賊みたいでいいですね。柔らかい剣を使えば安全ですし。》

 香取さんも笑った。

 《めっちゃ楽しいと思うよ。加納選手がフェンシングを始めたきっかけは何だったんですか。》

 加納選手は答えた。

 《パラリンピックの開催地が東京に決まったことがきっかけです。小学校2年生から剣道をやっていて、16歳で交通事故にあって義足になったあとも、健常者と一緒にやっていた。でも、剣道はパラ競技ではなかった。何とか東京大会に関わりたいと思って。》

 香取さんはうなずいた。

 《大きな影響を与えたんだね。》

 加納選手は力強く言った。

 《僕の人生を変えました。自分から協会に電話して、「やらせてください」ってお願いしました。剣道もしてたし、ちょっと自信があったんですよ。障害者スポーツに出て、負けるわけないって。そしたら、こてんぱんにされて。》

 香取さんはほほえんだ。

 《全く歯が立たなかったんですか。》

 加納選手は続けた。

 《でも、負けたのが悔しくて良かったのかもしれない。負けず嫌いなんです。》

 地道に力をつけた加納選手は東京大会に出場した。次の目標は2024年パリ大会。車いすフェンシングの会場はグラン・パレだ。香取さんは18年にルーブル美術館で個展を開いた。会場名を聞き、表情が一気に華やいだ。

 《シャネルのショーをいつもやっているところですね。ルーブル美術館のそば。パリのど真ん中ですよ。あんなところで試合が出来るのか。かっこいい。》

 加納選手の声も弾む。

 《想像しただけで震えます。》

 香取さんの目が輝く。

 《行きたいなパリ。応援に行けた時には、グラン・パレの中にいてくださいね。》

 加納選手は答えた。

 《そうですよね。香取さんに来てもらっても、「あれ、加納いないじゃん」ってなったら……。変な汗をかいてきました。でも、今日気合を入れていただいたので、がんばります。》

 香取さんは加納選手に手を差し出し、握手した。

 《応援しています。いやあ、本当に楽しかったな。》

 かのう・しんたろう 1985年、福岡市出身。2013年に車いすフェンシングを始め、東京大会は個人種目の男子フルーレと男子サーブルで12位。男子団体は7位入賞。カテゴリーA。ヤフー所属。

 ◇この特集は藤田絢子が担当しました。