部存続へ懸命プレー誓う 高校野球 日田三隈3人の挑戦
「野球しよう!」
20日朝、大分県日田市の日田三隈高校3年の教室。野球部主将の和田麟太郎は、ボート部の大会が終わった直後の宮崎優樹に狙いを定め「直球勝負」を挑んだ。
「……いいよ!」
ほっとしたような表情を浮かべた和田に、宮崎は笑みを浮かべて続けた。「みんなから、もう頼まれたよ」
「みんな」とは、同じ野球部3年の河津心翔と堀晴仁、それに監督の田口友範(45)。最後の大会に出場できるかどうか。必死の思いは同じだった。
大分大会の組み合わせ抽選会翌日の16日、頼りにしていた助っ人2人が急に出られなくなり、選手は8人に減った。和田はこの日、練習に訪れた日田林工のグラウンドで視線を落とし、つぶやいた。「この夏、終わったかな」。でも、このまま終われない理由があった。
昨夏、当時の3年生7人が引退し、新チームは和田、河津、堀の3人だけになった。生徒数333人の同校の大半は女子生徒。特に2年生の男子は20人もいない。必死に勧誘しても野球部には入らなかった。
キャッチボールも守備練習も3人。打撃練習ではマネジャーがマシンに球を入れ、一つ上の先輩が守備などに入ってくれたが、投手の球を打つ機会は少なかった。走塁練習なんてほとんどしたことがない。
河津は「未来が見えず、練習を続けて意味があるのかと思った。でもやっぱり野球が好き」。堀も「何のために頑張ってきたか自問することが多かった。でも、できないことをできるように工夫するのが三隈の一番いいところ」。
昨秋と今春の県予選で連合チームを組んだ安心院は、新入生が入って夏は単独で出場できる。日田三隈は、夏の大会に向けた判断を迫られた。3人の思いは一つ。「単独で出たい」。だからずっと「嫌われても、うるさいと言われても」マネジャーらと協力して同級生らを誘った。大会直前に弓道部の3年生も加わり、10人で初戦に挑む。
監督の田口は「3人には野球を続けた達成感を感じてもらいたい。続けることのすごさを。今はまだわからないでしょうけど」と語る。マネジャーの冨永桃梨(3年)は「1年の時より動きがしっかりしてきた。3人で頑張ってきたんだから、最後まで諦めずに出場したら、最後まで諦めないプレーをしてほしい」。
チームはさらに「夏の次の不安」も抱えている。夏が終わって助っ人が去れば、部には1年生1人しか残らない。廃部の危機が現実味を帯びる。
だから3人には、まだやらねばならないことがある。最後の夏に大好きな野球に集中して、楽しんでプレーすること。助っ人を引き受けてくれた仲間と一丸となって戦うこと。支えてくれた人たちに成長を見せること。そうしたら後輩が見て、野球をやりたいと思ってくれるかもしれない。
部がなくなるのは、悲しいから。 =敬称略
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7月2日に始まる全国高校野球選手権大分大会に参加するのは、入学時からコロナ禍に見舞われた部員たち。コロナだけでなく部員不足や闘病など、様々な困難を乗り越えてきた3年生の姿を追いました。(奥正光)
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