参議院議員の選び方をくじ引きに変えよう――。そんな大胆な提案をする政治学者がいる。政治理論を専門とする岡﨑晴輝・九州大学教授だ。参院を改組して、多様性のある「市民院」にする構想だ。抽選という行為の持つ民主的な意味を歴史の中に探り、「無意識の選挙原理主義」を乗り越えようと訴えている。参院選を前に話を聞いた。
古代ギリシャでは「抽選=民主的」
――参院の大胆な改革案を提言していますね。くじ引きで議員を選ぶ制度を導入したうえで「市民院」に改組しよう、と。
「ええ。無作為抽出された有権者が数年間、常勤の市民院議員を務めるというイメージです。国会を、選挙で議員を選ぶ衆院とくじ引きで議員を選ぶ市民院の二院制に変えるのです。原型のアイデアを初めて公表したのは10年近く前でした」
――なぜ、くじ引きに?
「現代の民主主義が機能不全を起こしているのは、人々が『選挙原理主義』に陥っているためだと思うからです。民主主義の方法は選挙だけではありません。歴史を振り返れば、古代ギリシャでは実際にくじ引きが使われていました。抽選制が民主的であり選挙制は貴族的であると考えられていたのです」
「今、世界の先端的な政治学では、抽選制議会の構想が真剣に検討され始めています。選挙制こそが民主的であるという近代以降の発想を見直すことで、民主主義の潜在的な力を再生させる試みです。既存の議会に抽選制の市民会議を付設する改革は、ベルギー内のドイツ語共同体やフランスの首都パリ市で実際に起きてもいます」
岡崎さんはこの後、くじ引きによる「市民院」の具体像を語ります。「プロの政治家でない市民に任せて大丈夫なの?」「構想の実現可能性は?」という疑問にも、自身が裁判員に選ばれた珍しい経験も引きながら答えてくれています。ちなみに日本の場合、「くじ引き国会」実現への一番のハードルは憲法改正なのだとか。難題を突破するために岡崎さんが考え出した「裏技」とは?
――選挙ではなく「くじ引き」で選ばれた議員にも代表としての正統性が宿るとしたら、その理由は何でしょう。
「目的と手続きという二つの…