性暴力が、監督と女優という映画・メディア産業におけるジェンダー化された権力関係に立脚して行使され、容認され、あるいは見過ごされてきた――。今春に映画界で性被害の告発が相次いだ後、映像メディアの研究者・批評家の有志が「映画監督・俳優の性加害についての報道をうけて」とする共同声明文を発表しました。呼びかけ人の一人である映画研究者の木下千花・京都大大学院教授(50)は「ハラスメントを神話化して、芸術家の立派な振る舞いであるかのようにもてはやすことは、やめましょう」と話します。
きのした・ちか
1971年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は日本映画史、表象文化論。東京大学大学院修士課程修了、シカゴ大学大学院で博士号取得。「溝口健二論 映画の美学と政治学」で芸術選奨新人賞。
――今回、声明を出した経緯を教えてください
「今まで声明文を書いたことはあまりなかったのですが、以前、日本映像学会のニュースレターで(米国で#MeToo運動の発端となった性加害を告発された)『ワインスタインと私たち』について書いたり、『日本にはほとんど#MeTooが波及していない、残念なことである』と書いたりしたこともあって、学会誌ではありますが、あれだけ活字にしておいてほっとけない、と思いました。研究者や編集者の仲間とも話して、これはやったほうがいい、となった」
「研究者というだけで何もコミットしてこなかった。声を上げた方は、二次被害もあるだろうし、賛同の声が後押しになれば、という思いもありました。1週間くらいかけて、かなりやりとりをして書きました」
天才監督が芸術のために…今は「ありえない」
――声明には「映画史を学び、過去や外国の映画産業における差別的慣行や、作品の差別表現を批判しつつも、現在の日本の映像メディア産業における性加害について沈黙してきた、あるいは無知であったことに対する深い反省の念に基づいています」とあります
「正直に言いますけど、気付くのが遅かった。一つには、現場を知らないので。関心はあったけど、うわさレベルでしか知らなかったということがあります」
「また、この手の性被害の話に関しては、見方がものすごく変わったところがあると思います。今から考えると、明らかに性被害であることが、監督のすごさとか、映画業界のちょっと危険でグラマラスな感じ、というのと混同されて伝えられていました」
「大昔の話ですが、(映画草…
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- 【視点】
「神話」にせず「寓話」として扱い、社会の違和感に蓋をしなければよいと思う。