洋服の直しや補修の工房を東京に開設 岐阜のテーラーバンク

松永佳伸
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 お気に入りの服を長く着続けてもらいたい――。サイズ直しや補修サービスをデジタル化し、クリーニング、保管などのアフターケアまで一括提供するベンチャー企業「テーラーバンク」(岐阜市)が今春、東京に新工房を開設した。働くのは平均年齢70歳のベテラン職人だ。大量生産・廃棄を見直し、テーラーの熟練した技術で洋服のリノベーションをする。

 ガタ、ガタ、ガタ……。ミシンやプレス機が並ぶ室内から、布を縫うミシンの小気味いい音が響く。東京都江東区新木場の工房「テーラーバンク・テクニカルラボ」。紺色の作業用ジャケットを身にまとった4人のベテランテーラーが黙々と手を動かす。

 工房は本社工場に次ぐ施設で、関東の物流効率の高さに加え、潜在的にシニア職人が多く、質の高いサービスの提供と多様な働き方の実現をめざしている。

 現在は主要取引先のオンワードパーソナルスタイルなど4社のオーダースーツ店を通じて持ち込まれるスーツやズボン、コートなどのサイズ直しや破損箇所の補修が中心だが、少しずつ既製服の受注も増えている。5年後には社全体の売り上げを現在の3億円から10億円まで伸ばしたいという。

 ラボで働く職人たちは、いずれもスーツづくりや直しの専門家たちだ。

 三村洋二さん(74)は岡山県出身。東京で洋服店を営んでいた親戚を頼って17歳で上京した。7年間、修業を積み、アパレル大手のオンワード樫山の技術者として採用された。定年まで紳士服づくり一筋で、パターンづくりや縫製技術の指導などを任された。退職後は、服の直し専門店などで働いてきた。

 紳士服製造1級技能士の資格を持つ三村さんは数年前から、洋服が縫える技術者が必要とされていないと感じていた。そんなとき「新工房で働いてほしい」と声がかかった。「この年でも好きな仕事をさせてもらえるのはありがたい」

 ラボは今後、若い技術者の育成にも乗り出す。三村さんは「苦労して身につけた技術を次世代に伝えたい」と意気込んでいる。

 テーラーバンクは2019年9月、岐阜市で60年以上の歴史を持つ紳士服のOEMメーカー「キンググロリー」の子会社として設立された。永井正継社長は「微修正に対する潜在的なニーズがある」と考え、直しや補修などを専門とするテーラーバンクを思いついた。近年の紳士服はパターンオーダーが多く、体形を採寸するものの完成品が必ずしも客にフィットするとは限らないからだ。

 オーダースーツ店にとっても、微修正が顧客の満足度アップにつながればお得意様になってもらえる。

 本社工場がある岐阜市は、愛知県一宮市とともにファッション産業の集積地として全国的にも知られ、繊維の街からネットワークの構築をめざしている。

 まず取り組んだのは、大手紳士服専門店のスーツをつくり続けてきた経験を生かし、消費者の体形や数値データをデジタル化することだった。ウェブシステムでアフターケアを丸ごと提供できる態勢を整えた。

 オーダースーツ店は、顧客から注文を受けた袖や裾、ウエストなどの直し、ほつれや穴あきなどの補修のほか、クリーニング、保管などをオンラインで管理できる。洋服は売ったら終わりだったが、テーラーバンクは洋服の購入時から始まるサービスだ。永井社長は「ものを大切にするというSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、消費者との関係を築くことが大切。ワンストップサービスにより効率的な運営が可能になる」と力を込める。(松永佳伸)