日本生まれの「家計簿」物価高のりこえてきた堅実さ、政治にはあるか

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論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん

 東京大学大学院教授・林香里さんによる「論壇時評」では毎月、雑誌やネットに掲載される注目の論考を紹介します。

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 「インフレ」という言葉が世間の耳目を集めている。振り返れば、日本は戦争前後にかけて激しいインフレを経験した。1949年には45年と比べて卸売物価が70倍、戦争前の30年代半ばと比べると、220倍に跳ね上がったという(〈1〉)。

 この「ハイパーインフレ」を生きのびるために、月刊誌「婦人之友」は、46年に「家計簿をつけ通す同盟」という読者グループの結成を呼びかけ、女たちによる家計を守る運動を起こした(〈2〉)。「婦人之友」は、1904年に創刊者羽仁もと子が家計簿を考案したことでよく知られる。この同盟は昨年解散したが、読者が自分の家計簿を公開するエッセーは、今日も随時掲載されている。同誌をはじめて手に取った30代の私は、自分の家の家計簿を明かすなんて勇気あるなあと驚いたものだ。しかし、私自身が転勤や慣れぬ子育てに苦労するうちに、家計簿とともに語られる読者ページは、まるでがんばっている友だちからの手紙のようで毎号楽しみにするようになった。

 今月号では札幌で一人暮らしをする80歳の女性の家計簿が掲載されていた。この女性は家計簿をスマホでつけはじめ、その後、思い切ってパソコンとWiFiも導入。コロナ禍で仲間とZoomで針仕事の講習会を始めたそうだ(〈3〉)。

 家計簿は、実は日本独特の実践らしい。予算を立て、将来の蓄えを取り分けながら心豊かに生きる――kakeiboは和食や整理整頓と同様、シンプルな「日本流生活」の象徴となって、海外でも実践されるようになっていると聞く(〈4〉)。

 しかし、我らが日本政府はどうだろうか。数字を見ると、どうやら堅実なkakeibo精神とは真逆の路線でここまで来たのではないかとの疑念が湧く。

後半は経済学者による円安や値上げの読み解きを紹介します。物価高はどうすれば止められるか。キーワードの「家計簿」が再び浮上します。

 財務省サイト(〈5〉)には…

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