ひきこもりの若者たちへ職業体験 講師は地元の農家、漁師ら

寺島笑花
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 長崎県西海市に、農漁業やプログラミングなどを学べる職業体験プログラムがある。講師を務めるのは地域住民ら。生徒はひきこもりを経験するなど、就労に悩みを抱える全国の若者たち。若者たちは、大村湾に臨む海沿いの古民家で共同生活を送っている。

 この春、この場所から新たな一歩を踏み出した人がいる。昨年4月にプログラムに参加した埼玉県出身のの吉川大輝さん(19)。西海市で漁師として歩み始めた。「ここに来ていなかったらいまだに部屋にこもったままだった。やりたいことが見つかってうれしい」

 中学生のころから学校の雰囲気が苦手だった。高校に入って体調を崩すようになり、2年生の頃から部屋にこもりがちに。1日の大半はゲームをして過ごし、外出するのはゲームソフトを買うときぐらいだった。

 心配した母親から持ちかけられたのが、この職業体験プログラム。内心後ろ向きだったが、長崎県への家族旅行の「ついで」で訪れた1泊の体験で、気持ちはひっくり返った。

 特にのめりこんだのは漁業。「船に乗るのも魚を見るのも、網を引き揚げるのも楽しかった」。なにより、講師役を務めていた地元漁師が楽しそうに仕事をしている姿が格好良くて、「こうなりたい」と思った。今まで経験したことのない生活に心が躍り、参加を決めた。

 「何を言っても肯定してくれる」スタッフにも支えられたという。「元々人見知りだったけど、ここに来て、話そうって思えました」

 いまは、県の新規漁業就業者向けの支援制度を活用し、地元のベテラン漁師のもとで修業を積む。憧れの漁師のように、「何でもできる万能な人になりたい」。

 吉川さんが参加したプログラムは「101カレッジ」。一般社団法人「この道」が2020年に立ち上げた。「101」には、「百人に百通りの生き方がある中で、何にもとらわれず自分だけの生き方を見つけてほしい」という意味が込められている。これまでに7人が卒業。生活実費として月8万円かかるが授業料は無料で、同法人の理念に賛同する企業の協賛などで運営している。

 現在の参加者は3人。5月、東京都から体験入学に来ていた男性(23)は、高校卒業後、歯学を学ぶために2年間浪人したが断念。私立大学に進学したが「意味があるのかな」と考えるようになった。1年目で退学し、家にこもりがちになったという。「何かしないといけないな、という思いはずっとありました」。プログラムには母親の勧めで参加した。「いまは、目標まではありません。東京ではストレスを感じていたけど、こっちはのんびりしていて住みやすいです」

 佐賀県の男性(21)は参加して半年。高卒で就職した会社を退職後、就労支援機関の紹介でプログラムを知ったという。これまで農業のほかに木工や漁業を体験。「漁師の仕事をもっと知りたい」と話す。

 プログラムを運営する加藤嵩啓(たかひろ)さん(28)は、普段は看護師として働く。夜勤明けでも一緒に作業し、参加者から相談があると夜中でも駆けつける。「手を取り合って共存していく世界っていいじゃないですか。(参加者は)自分にとっても家族みたいな存在です」。講師として協力する地元農家の森浩三さん(66)は「地域の過疎化に嘆いているだけでは何も進まない。地域の元気につながれば」と話す。

 体験の申し込みは随時受け付けている。問い合わせは101カレッジ(0959・33・9013)まで。(寺島笑花)