資材高騰でも建築ラッシュ 「その後の経済は……」 建設業者の懸念

参院選2022

岡本進
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 6月半ば、さいたま市見沼区で建設業を営む坂本喜孝さん(61)の携帯電話に、元請けの大手企業から連絡が入った。「着工が急に延期になった。銀行の融資が下りないらしい」

 東京のJR品川駅近くの住宅地で、6階建てのマンションの建設に入る予定だった。坂本さんの会社は、鉄鋼メーカーから買った鉄骨を建物の形に合わせて溶接して組み立てる仕事を請け負っていた。

 着工がとまったのは、建築資材の価格上昇が理由だ。下請け業者の中で「赤字になるならおりる」との声が上がり、当初3億円だった建設費が3億3千万円に見直された。結局、発注主は資金繰りがつかなくなり、建設はキャンセルになった。

 建築資材のうち、鉄の値上がりは著しく、「アイアンショック」と呼ばれる。コロナ禍でとまっていたインフラ投資が各国で再開され、供給が追いつかない。取り合い状態で、鉄骨の国内価格だと2年前と比べて1・5倍ほどだ。

 急速に進む円安が拍車をかける。6月29日には一時1ドル=137円台まで下落し、24年ぶりの円安水準になった。鉄の原料の鉄鉱石を日本は100%輸入に頼る。円安は価格の上昇につながるため、坂本さんは外国為替市場円相場から目が離せない。

 鉄鉱石にとどまらず、「電気炉」で鉄に再利用される鉄くずの値段も、国内では一時、高騰した。脱炭素化にかじを切った中国の買い集めが背景にある。

 下地や養生に使う千円前後の型枠を坂本さんが最近、業者に大量に注文したところ、「3千円なら売れる」と言われた。鉄骨の組み立てに使うボルトは7月から15%値上がりするため、メーカーから「早く注文を」とせかされる。

 「誰もが経験していない異常な状態」と坂本さんは言う。建築資材の価格が高騰したまま高止まり、もとに戻らなければ、影響はより深刻になる。

 父親が始めた建設会社を継いだのは27歳のときだ。手先が器用だった父は、客から頼まれるとエレベーターまでつくった。頑固で短気だったが、仕事に妥協をしない人だった。社員は、いま15人。父譲りの堅実な仕事が評価され、海外の建築賞を受賞した金沢市の図書館の工事の一部を請け負うなど、県外からの発注も多い。

 オフィスビルやマンションの建設を持ち込む客に、坂本さんは「いまは待った方がいい」と正直に伝える。それでも「建設費はいくら高くてもいい」と注文する客は絶えない。コロナ禍で建設を先延ばしし、これ以上は待てないとの事情が大きいという。

 「都心だと、高額でもオフィスの借り手はいる。億ションの売れ行きもいい。建主からすれば、建設費が上がっても元手を回収できると踏んでいる」と坂本さんは話す。年間7億円あった会社の売り上げも、昨年は3億円まで落ち込んだものの、今年に入ってからは持ち直している。

 物価高で日々の暮らしに苦しむ人たちが大勢いる一方で、高額物件の建築ラッシュが続く光景は、坂本さんの目に「異様な二極化」に映る。社会へのしわ寄せが気がかりだ。政治家の役割が、いつにも増して重くなっていると思う。

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 参院選では物価高が大きな争点になっています。足元の影響をたどります。(岡本進)

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