祇園祭が始まりました。
熱をおびていく街に、祭りにちなんだお菓子が甘い彩りを添えます。「祇園まもり」は、弾力のある求肥(ぎゅうひ)を、薄く焼いたカステラ生地で巻いています。思いのほか歯切れよく、暑い季節に合った軽やかな組み合わせです。
焼き印は八坂神社の紋の「三つ巴(どもえ)」「五瓜(ごか)に唐花(からはな)」に加え、災厄を払う「蘇民将来子孫也」のことばをコロナ禍のおまもりに押しました。
鍵善良房がのれんを出す祇園町は、八坂神社のおひざ元です。氏子組織の宮本組が、神事としての祇園祭を中心となって支えています。神々が市中へと渡る神輿(みこし)の先導をするのも、宮本組です。
鍵善主人の今西善也さんに幼いころの記憶を聞くと、神輿の触れ太鼓に家から走り出たこと、お囃子(はやし)の鉦(かね)をたたく放課後の稽古と、さまざまな音が響いてきます。
「祭りの音はその土地ならでは。自分の中に刻まれた音がありませんか」と、「山・鉾(ほこ)・屋台の祭り研究事典」(思文閣出版)の監修者で元京都学園大学教授の植木行宣さん。「興味深いことに、全国に都から派生した祇園祭は多いのに、京都のお囃子の流れはほとんど見られません」
都市は多くの人が集まることで栄え、その過密さが災いの場面では犠牲を大きくもした。「疫病退散への祈りは切実で、町の人は祭りに近しさと畏(おそ)れを抱いてきた。お囃子の響きにもそれが表れ、唯一の存在になったのでしょう」。華やかなだけでない。耳を澄ますと、祭りが見えてきます。(編集委員・長沢美津子)
7月のおかし
銘 祇園まもり 求肥とカステラ生地を合わせて「調布」や「若鮎」の名で菓子にする店もある。求肥は白と糖蜜入りの2色。
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協力:今西善也 京都祇園町「鍵善良房」15代主人。