「自分ができること、最後まで」男子野球部で見つけた二つ目の夢

松尾葉奈
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 「せーのっ、ナイスバッチ」「ピッチャー、思い切って」。6月中旬、広島市安佐北区広島県立可部高校のグラウンド。練習試合でひときわ通る声を響かせながら、28人のチームを鼓舞する選手がいた。

 7番二塁手で先発出場した坂本遥菜さん(3年)。県内の高校でただ1人、男子硬式野球部でプレーする女子部員だ。「その日、その人の状態を見て、1人で抱え込まないようにって声かけします」。この日は投手としても登板し、三振を奪った。

ずっと女子は1人、亡き祖母の一言で決めた

 2歳上の兄の影響で小5のときに少年野球のチームに入り、中学でも軟式野球を続けた。ずっと女子は1人だった。

 「外に出んで」。プロ野球選手を夢見て県外の高校も考えたが、昨秋に亡くなった祖母の一言で家から近い可部に決めた。男子と同じ練習をこなせば、大学の女子野球部でレギュラー入りして活躍できる。すぐに気持ちが切り替わった。

 「公式戦に出られないけど、大丈夫?」

 入部前、田中廉(れん)監督(26)からこう言われた。男子野球部に所属する女子部員は、規定で公式戦に出場できない。でも悔しいとか悲しいとか、そんな気持ちはなかった。

 主将の弘中薫君(3年)は小中高と同級生だ。「坂本は中学のときからチームの中心」。主将になって1カ月たった昨秋、坂本さんからLINEでメッセージが届いた。

 「もっと周り見た方がいいよ。端でサボっている人いたよ」

 チームがバラバラ、それがプレーにも――。悩んでいた弘中君はハッとした。捕手としての個人練習に集中してばかりで全体を見ていなかった。

 「どうしたん?」。うまく部員のやる気を引き出せないときは、下校時にこんな声をかけてくれた。

 「頼りになるし、支えてくれる。一緒にやってきた仲間だから、一緒に公式戦でプレーできたらなという気持ちもある」

コロナ禍の中、訪ねたかつてのチームで

 「弘中はキャプテンだから、1人で抱えてみんなに言わないんですよ。しんどいと思う」

 そんな坂本さんの心づかいを、他のチームメートも感じている。

 公式戦はいつも、ボールガールとして参加するか、スタンドから応援するか。だからこそ、懸命にベンチ入りをめざす部員がいれば声をかけて励まし、バッティングピッチャーも買って出る。

 大学の女子野球部でレギュラーになるために入った男子野球部。でもそこで、坂本さんはもう一つの目標を見つけた。人と関わる、教員の仕事だ。

 「悩みを聞くのは好き。解決はできないかもだけど、話を聞いてあげることはできるから」

 コロナ禍もきっかけになった。練習ができないとき、かつて自分がプレーしていた少年野球チームを訪ねた。子どもたちに打ち方やボールのとり方を説明しながら、教えることの面白さを知った。

 最後の夏、坂本さんは大役を任された。9日、広島市南区マツダスタジアムである広島大会の開会式。全チームの行進を先導し、開幕試合で始球式のマウンドに立つ。そして可部は15日、初戦に臨む。

 「仲間と支え合い、助け合ってきた。自分ができることを最後までやって、勝ちたい。負けたら、励ますのが大変なんですよ」

 はにかんだ笑顔が輝いた。

     ◇

 これまでの価値観にとらわれず、自分らしさを追い求める。Z世代と呼ばれる10代~20代半ばの若者たちには、そんな特徴があるとされる。夏の高校野球シーズンを迎え、それぞれの球音をたどった。(松尾葉奈)