不当な解雇を裁判で金銭解決 政府が制度検討、議論低迷のワケは

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橋本拓樹
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 解雇された働き手から申し立てを受け、裁判所が不当解雇と判断すれば、一定の金銭を会社に支払わせることで解決とする――。そんな「解雇の金銭解決制度」の導入を政府が検討している。ただ、労働者側は「安易なリストラにつながる」などと反発し、使用者側も解決金が高額になることへの懸念などから慎重で、実現の見通しは立っていない。(橋本拓樹)

 業務運転中にタクシーを傷つけてしまい、こっそり塗り隠した運転手。会社に気付かれ、「進退は社長に一任します」と始末書を書いたら、約1カ月後に解雇された。そこまでの事態になると思わなかった、と会社を訴えたところ、東京地裁は2014年、解雇は無効との判決を下した――。

 こうした解雇をめぐる争いは、各地で多く起きている。会社が働き手を解雇するには「客観的に合理的な理由」などが必要で、それがなければ解雇は無効と労働契約法で定められている。ただ、何が合理的な理由かといった判断は難しくトラブルになりがちだ。

 働き手が裁判に訴える場合、まずは解雇の無効(職場復帰)を求めることになる。20年度に全国の地方裁判所で出た解雇関連の判決は242件で、原告の勝訴と敗訴がほぼ半々だった。ただ、勝訴しても実際に職場復帰はできないケースが一定程度あるとされる。

 そこで、「解雇の金銭解決制度」を導入すれば、最初から職場復帰ではなく、金銭を求めたい労働者にとっては新しい選択肢の一つになる、とされている。

 また現状でも、裁判上の和解や、より早く結果が出る労働審判やあっせんという制度を使い、職場復帰は求めずに解決金を受け取る場合も多い。20年度は地裁での和解は406件、労働審判の申し立ては1853件あった。独立行政法人労働政策研究・研修機構」が13年の事例を調べた結果、解決金の中央値は和解が約230万円、労働審判は約110万円だった。

 ただ、事例によって金額のばらつきが大きく、「金銭で解決するとしたら、いくらぐらいになるか」という予見性が低いとされる。金銭解決制度を導入すれば、事前に金額が予見できるようになり、労使双方に利点があるとされている。

労使はともに消極的

 政府が検討中の制度の名称は「解雇無効時の金銭救済制度」。解雇された人が、訴訟や労働審判で利用を申し立てる。裁判所が「解雇は無効」だと判断すれば、会社に一定水準の解決金の支払いを命じ、それによって労働契約が終了する仕組みだ。会社側から申し立てることはできない。

 解決金の額については、働き…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2022年7月4日22時59分 投稿
    【視点】

    これは日本の賃金に、企業を横断した社会的基準がないことの反映だ、と考えることができるのではないか。 ある職務に社会的な賃金水準があるのなら、「その賃金の0・5倍に勤続年数をかけた金額が、企業が解雇の際に補償すべき金額だ」という基準が作