いきもの目線:百獣の王ライオンが超接近 群れ守るため壮絶な死闘も

竹谷俊之
【いきもの目線】アフリカライオン@東武動物公園=2022年6月1日、竹谷俊之撮影
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 連載100回目となる「いきもの目線」の主人公は、「100」にひっかけて百獣の王ライオン。ほかの動物を圧倒する迫力と勇ましい姿が強者の象徴とされ、動物園の「人気者」でもある。アフリカライオン3頭を飼育展示している東武動物公園埼玉県宮代町)の協力を得て、360度カメラで撮影をした。

 ライオンは主にアフリカのサバンナやインド北西部に生息するネコ科の肉食動物。金色のたてがみを持つオスの体重は、250キロを超えることもあり、ネコ科ではトラに次いで2番目に大きな種だ。

 青空が広がった6月上旬の休園日。東ゲートから徒歩15分。ネコ科の動物たちがいる「キャットワールド」に、ライオンが生活する「PRIDE OF LION」がある。広さは411平方メートル、全長20メートルのガラス越しにライオンの様子を見ることができる。

 今回は特別に撮影許可を得て、飼育係の北濱健太さんの案内に従い、ライオンの獣舎へ。足元を消毒して中に入り、おり越しにライオンのオスとメスのペアに対面すると、早速、「おまえ誰だ」と言わんばかりにメスに威嚇された。

 ライオンが獣舎内にいることを北濱さんが確認した後、ゲートで仕切られた展示場に案内された。手作りの木製撮影台をペグで固定して360度カメラを設置。周囲に馬肉を並べて準備完了だ。

 「当園のライオンはメスの方が優位なので、先にオスを出しましょう。メスが出てきたら通常、オスは離れます」と北濱さん。

【動画】東武動物公園の飼育係がアフリカライオンを解説=竹谷俊之撮影

 ゲートが開くと、オスが出てきた。当初、馬肉を食べると予想していたが、いきなりカメラに近づいてきた。約15秒後にメスが登場。ところが、オスがメスを追い払い、馬肉を全部食べてしまうという予想外の展開に。

 メスは撮影台をなめ回し、レンズフィルターをかじって取り外してしまった。北濱さんがすぐにエサを用意して、オスとメスを獣舎に戻した。

 ライオンがレンズフィルターを食べていないか、ケガはしていないだろうか。不安だったが、レンズフィルターの周囲は破損したが、ライオンもカメラ本体も無事だった。

 午後は、週末と祝日に行われている「ライオンガイド」を撮影。クレーンでつるした鳥肉をメスが立ちあがってかぶりついた。そのまま、カメラの目の前まで来て食べるという迫力の映像になった。

再びカメラをかじられる

 ところが、再び想定外の出来事が……。

 午前の撮影で覚えていたのか、メスがまたカメラをかじりだした。今度は撮影台からカメラ本体を取り出し、くわえている。北濱さんがライオンを獣舎に戻すため慌てて走っていく。しばらくして、メスが立ち去った後、展示場内には、レンズフィルターとカメラが転がっていた。

 これまで、トラなど数々の猛獣を同様の方法で撮影してきたが、レンズフィルターやカメラ本体を外されたのは初めて。木製撮影台はペグでしっかり固定し、カメラが簡単に抜けないようにセットしたつもりだったが、ライオンの強い力には通用しなかった。

 「やはり動物ですね。人が思うように自由に動かせるものではありません」と北濱さん。

絶滅危惧種に指定、脅かされる生態環境

 北濱さんによると、野生のライオンはネコ科の中で唯一群れ(プライド)を形成する。群れは1~6頭のオス、血のつながりのある4~12頭前後のメスとその子らで構成される。子どものオスは3~4歳になると群れから追い出され、その後は単独か、若いオスとグループ行動をするという。

 基本的にはメスが集団で狩りや子育てをする。リーダーのオスはブチハイエナや、乗っ取りにくる他のライオンのオスから群れを守るのが役割だ。戦いが始まれば命がけ。壮絶な死闘の末、集団を守れなければ死ぬか、放浪の旅にでるかしかない。北濱さんによると、死闘に勝って群れのリーダーになっても、2、3年で世代交代があるといい、長く群れのリーダーとしていられるのは難しいという。

 さらに、新しくリーダーとなったオスは、前のリーダーだったオスの子どもをすべて殺してしまうという。そうすることで、メスの発情を促して、自分の血を継ぐ子どもを産ませるという。野生のライオンの子どもは天敵にも狙われるため、成獣になるまでの生存率は低いという。

 サバンナの食物連鎖の最上位に立つライオン。現在、国内の動物園では普通に見られるが、国際自然保護連合(IUCN)が定めるレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。背景には、開発が進んだことによる生息地の減少や獲物の不足がある。

 ほかにも、繁殖させたライオンをハンティングする狩猟愛好家の存在も、環境保護団体などから問題視されている。野生か繁殖かを問わず、ライオンの生態環境は脅かされているといえる。

 北濱さんは訴える。「結局、動物たちの一番の敵は人間です。壊すのも元に戻すのも、人間なんです」

「いきもの目線」は今回で終了します。ありがとうございました

 360度撮影が可能なビデオカメラを使い、動物や昆虫、魚などに「超接近」して撮影する「いきもの目線」は、今回のライオン編をもって終了します。

 いきもの目線は2015年8月に朝日新聞デジタルでスタート。哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類、両生類、魚類、昆虫まで、100種以上の生き物を幅広く紹介してきました。映像は子どもたちの教育にも活用されました。全国60カ所以上の動物園や水族館などのほか、学校関係者ら大勢の方のご協力があったからこそ、100回まで続けることができました。

 いきもの目線の特徴は、飼育員ですらなかなか見ることができない、生き物たちよりも低い目線で撮影した映像です。そして、現実ではあり得ない大きさで、間近に見られることです。

 撮影した映像をみると、カメラに顔を近づける好奇心旺盛な動物たちの姿が映っていました。そんな愛らしい姿をファンと共有したいという一心で走り続けてきました。

 そして毎回、いきもの目線を楽しみにしてくださったファンの皆さん、企画は終了しますが、過去に配信した映像は今後も見ることができます(https://www.asahi.com/special/animal/360mesen/)。VRゴーグルを使えば、生き物と同じ空間にいるような体験もできますので、楽しんでいただけたらと思います。

 長い間、ありがとうございました。(竹谷俊之)