憧れは新井貴浩さん、でも部員は1人に…人生初の「HR計画」掲げた

岡純太郎
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 最後の夏までに憧れのホームランを打ちたい――。そんな思いで、ひたむきにバットを振り続ける球児がいる。監督との二人三脚で目指す「ホームラン・プロジェクト」とは。

 6月初旬、美原(堺市美原区)が連合チームを組む大阪教育センター付(大阪市住吉区)のグラウンドであった練習試合を訪れた。

 2番センターで先発出場した美原の上中翔瑛(しょうえい)君(3年)。芯でとらえた鋭い打球音を響かせていた。

 上中君には夢がある。引退までに人生で初めてのホームランを打つことだ。

 プロ野球阪神タイガースのファンだった祖母ハツノさんの影響で、小学校の頃に甲子園へ通った。当時阪神にいた新井貴浩さんの豪快なスイング。「ぼくもあんなホームランを打ちたい」。甲子園で活躍する新井さんの姿が、今も目に焼き付いているという。

 そんな上中君がホームランと向きあうことになったのは、昨年10月のことだ。

 美原は昨夏の大阪大会、他部からの「助っ人」の力を借りながらも単独チームで出場した。ただ、6人の3年生が引退し、新チームの部員は上中君と1年生の2人に。コロナ禍で秋の部活は中止となり、さらに秋季府予選が終わる頃、後輩が部を去った。上中君は1人になった。

 「とても野球が出来る状態じゃない」。植慎太郎監督(32)は上中君のことが心配になった。放課後、職員室前で声をかけた。

 「冬場のトレーニングはしんどい。1人になったけど、頑張れるか?」

 「頑張ります」

 上中君は短く答えた。

 とはいえ、1人では練習にも不自由する。「やめるつもりはなかったけど、何より孤独がつらかった。正直なところ、新チームになった時から、早く引退したいと思っていました」と上中君は打ち明ける。

 植監督は、普段口数の少ない上中君が、ずっと「ホームランを打ちたい」と言っていたのを思い出した。

 「何か目標を持って、野球に対する気持ちをつないでもらいたかった」

 提案したのが、まだ打ったことがないホームランを引退までに1本打つという目標を掲げた「ホームラン・プロジェクト」だった。

 ただ、簡単ではない。

 ホームラン打者の多くは体格がいい。一方で上中君は165センチ、61キロ。打席から球場スタンドまでの90メートル超は、数字以上に遠く感じる。植監督も現役時代にホームランを打った経験がなく、教えられない。

 そこで植監督は上中君のスイングを動画で撮り、SNSで共有してホームランを打つためのアドバイスを募った。「腰の位置や目線が変わらないように」「(球をとらえる)ミートポイントをおへその前にした方がいい」など、多くの助言が届いたという。

 上中君はその意見を参考にしながら、素振り300回を日課にした。鈴木誠也選手(カブス)や村上宗隆選手(ヤクルト)ら長距離打者の動画を見ては、自分に生かせないか研究した。

 成長を実感したのは今年3月。練習試合で相手投手の直球を振り抜くと、フェンス近くまで打球が伸び、二塁打となった。「はじめは冗談で言ってたホームラン。でもその目標が少しずつ近づいている気がする」

 美原にも1年生2人が入部し、上中君は先輩になった。大阪教育センター付と連合チームを組むことになり、両校の指導者はためらうことなく、ホームランを目指して毎日ひたむきに努力を続けている上中君を主将に指名した。「主将としてホームランを打ちたい気持ちは強まった」と言う。

 連合チームの初戦は17日の予定。上中君は誓う。「苦しい時に、やめんで正解やったと思えるように。応援してくれた先生に、ありがとうの気持ちをあらわせるように。勝利を呼び込む1本を出したい」(岡純太郎)

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 9日開幕する第104回全国高校野球選手権大阪大会。アイデアと工夫でこれまでの「常識」を変え、夏の勝利に向けて努力する主役たちの姿を紹介します。