発言するのはいつも主将らばかり 気付いた「勝利は目標であり過程」

[PR]

 部活動で「勝利至上主義」の行き過ぎが指摘されている。スポーツには勝敗が付きものだ。勝利は目指すべきものか、その価値は何か、どうやってたどり着くのか。部活動が過渡期にある中、山口県内で高校野球に携わる指導者たちの思いを聞いた。

新南陽

 ウォーミングアップは省く。日中に体が温まっていて、キャッチボールから始めてもけがのリスクは小さいから。授業が遅くまで続く日は、約120分の練習時間を有効に使おうと、着替えが楽なジャージー姿で練習していい。大会が迫る時期は体調を万全にするため、週末に練習を詰め込むことはしない。

 この春、新南陽に着任して野球部の指導を始めた原田正太郎監督(30)は練習を大きく変えた。そのやり方が「勝ちにつながっているかどうか」が全ての基準だ。

 自分が徳山高野球部のピッチャーだった頃は違った。誰よりも多く、練習の時間と量をこなせば「甲子園に行ける」と思っていた。夜まで投げ込み、食べ続けた。体が大きくなり、球威も増したが、甲子園には届かなかった。

 自己流の練習が「無鉄砲だった」と気付いたのは、筑波大学の硬式野球部に所属してから。キャッチボールは8分、打撃練習は2分ずつ、と練習は時間で区切られていた。限られた時間でいかに練習の質を高め、成果につなげるか。その考え方を知り、「がむしゃらにやるだけで結果が出るはずはない」と思い知った。

 原田監督の新しい練習方法に「こんなに変えるんだと驚いた」と選手たちは振り返る。打撃力をあげようと、砂鉄入りのサンドボールを通常より細いバットで打ち込むなど「勝ち」を意識した練習も増えた。宗東愛輝主将(3年)は「チームが強くなった」と自信をのぞかせる。

 自身が部活動をしていた頃と比べて練習時間を減らしたり「休養日」を設けたりしている――。朝日新聞社が行ったアンケートで、県内の10校以上の高校野球指導者がそう答えた。健康面への配慮、学習との両立、練習の効率化など、ねらいは様々だ。

 ある指導者はこうつづった。「子どもをいかにやる気にさせるか、いかに野球を好きにさせるかが、本当の問題で、普遍だ。成長の時期と判断した時には長時間指導することも必要。つまり、変えていかなければいけないこと、変えてはいけないことを、指導者自身が判断、指導していくことが必要になってくる」

     ◇

徳山高専

 試合を振り返るミーティングで発言するのはいつも主将か副主将だけだった。他には誰も口を開かない。春の大会が終わった頃の徳山高専野球部の姿だ。

 だが最近、選手たちはタブレットでスコアを見ながら「分析」するようになった。話し合いは、島袋淳監督(48)の「この場面がポイントではないか」という一言をきっかけに始まる。

 徳山高専には情報電子、機械電気、土木建築の三つの学科がある。学生は5年間かけて技術者としての専門分野を学ぶ。多くが卒業とともに野球から離れ、プロ選手を輩出するわけでもない。そんな野球部を指導して20年以上になる島袋監督は「野球は技術者を育てるのに最も適したスポーツ」と言い切る。

 なぜか。技術者に求められるのは「仮説を立て、実験で検証し、結果を分析すること」だ。課題に自分で気づき、練習する。試合で試し、勝敗の原因を考える。練習に戻って反復。一連の取り組みはどのスポーツにも共通するが、野球が「最適」な理由は「間」が存在するからという。

 打席に立ち、投手と向かい合う。投球を待つ。攻守の交代にも時間がある。全てが「気づき、考え、行動に移す時間」と指導する。「野球は、技術者としての考え方を実践する場だ」

 夏の大会が迫るなか、選手たちはある練習試合の後、スコアを見て話し合った。島袋監督がポイントと指摘した回の前にさかのぼり、説明した。

 点を取れなかったのは、前の場面に原因がある。相手の上位打線を三者凡退に抑え、勢いに乗ったはずだった。だがその裏で点を取れず、次の守備でもミスが出た。あの「流れ」をつかみ切れなかったから負けたんだ――。

 「野球は流れが大切」。そう指導を続けてきた島袋監督は手応えを感じ、うなずいた。選手は将来、技術者として巣立っていく。目の前の勝利は目標であり「過程」だ。