第9回ハラスメントなくすため「用意」すべきことは 西川美和監督の危機感

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聞き手・佐藤美鈴
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 映画界で広がる「#MeToo」の声を受け、性暴力やハラスメントをなくそうとする様々な動きが起こり始めています。有志の映画監督たちが6月、映画の未来のための共助システム構築を目指すグループを立ち上げました。メンバーの一人で映画監督の西川美和さん(47)は「映画業界全体がきちんとした環境、予算で映画を作っていこうという考え方になっていかないと、個々の努力だけでは救えない」と話します。

にしかわ・みわ

1974年、広島県出身。2002年に「蛇イチゴ」で監督デビュー。監督作は「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」「永い言い訳」「すばらしき世界」など。小説や随筆も手がける。是枝裕和諏訪敦彦ら監督有志で作る「日本版CNC設立を求める会」のメンバー。

 ――映画監督らによる暴力行為や性加害の報道を受け、西川さんや是枝裕和監督、諏訪敦彦監督らは3月、「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します」という声明(https://action4cinema.theletter.jp/posts/877aa260-a60c-11ec-a1bd-3d3b3c9fc3bd別ウインドウで開きます)を出しました

 「あってはならないという認識は、あるところにはあるけれど、共通の価値観が業界内に形成されずにきたんだ、と改めて実感しました」

 「以前から有志の監督で『日本版CNC設立を求める会』(フランスの国立映画映像センター〈CNC〉などをモデルに、製作支援や労働環境改善を図る映画界の統括組織設立を目指す団体)の準備をしていて、ハラスメント防止は最優先課題という認識のもとに進めていた。けれども、被害の訴えが週刊誌にいってしまう、あるいは声明を出した私たちのところに寄せられてしまうというのは、解決策や声を引き受けるシステムが、映画界に準備されてこなかったことの裏返しだろう、と捉えました」

 「私たちは数人の有志なので、問題に対して捜査したり、断罪したり、監視したりという権限はないけれども、少なくとも足りないシステムや訴える場所、解決策を考えること、それに対する活動は起こしていけるのではないかと思いました」

 「今までは、少なくとも自分の座組み(撮影チーム)だけは無理をせずに作れる環境を守る、ということでしかなかったけど、フランスのCNCや韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)について勉強して、やっぱり『連帯』がなければ業界全体は変えようがない、ということがわかってきました」

個々の努力だけでは救えない

 ――3月の声明では、映画監督について「潜在的な暴力性を孕(はら)み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません」と指摘しています

 「映画の現場の基本は監督のトップダウンで、完全な合議制をとっていたら撮影は進まない。トップダウンである限りは、やっぱり権威を持つんです。何十人、何百人が動く仕事ですから、オーディションに落ちた俳優たちや、特殊な小道具を作ってくれる地方の工房の職人さんなど、顔も見えず、ただ監督からの『ノー』だけが伝わる相手も多い。『もう少しこういう加工ができないでしょうか、申し訳ないけれども』と伝えたつもりでも、『監督、気に入らねえってさ』と受け止められることも。監督の決定は力を持ち、目の届かないところで、人に限りなく苦労を強いていますし、心を傷つけてもいると思います。良き人間であろう、人の意見を聞こうとするほど、必ず行き届かず、破綻(はたん)してしまうでしょう」

 ――そんな権威を持つ立場として、意識や工夫をしていることはありますか

 「自分ができることとすれば…

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