「出版も新聞も厳しい時代ですが…」 ミシマ社代表に記者が聞く

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聞き手・玉置太郎
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 社員16人の小さな出版社「ミシマ社」は、京都市に拠点がある。本の書き手は、作家や学者のほか、書店主、農家、パン屋映画監督、僧侶、能楽師……と、取りとめもない。だが、どれもおもしろい。出版不況のなか、次々に新たな策を打ちだす三島邦弘代表(47)を、一軒家のオフィスに訪ねた。

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 ――畳にちゃぶ台。全然オフィスっぽくないですが、なぜ社屋に一軒家を選んだのですか。

 ぼく、高い建物の密室で仕事するのが苦手で。昔勤めていた出版社はビルの11階にありました。窓から外を見ると、どうしても歩く人たちを見下ろすことになる。ひとりの人間がアリくらいの大きさに見えてしまうことに、違和感がありました。

 出版人として、生活者に届く本をつくりたいって思ってきました。だから、人の言葉はやっぱり地ベタから聞いて、本という形にしていきたい。仕事場にいる時間って1日の半分くらいを占めますから、そこで見ていること、感じていることは、無意識のうちに本づくりに影響してきます。

 一軒家では日々、雨風を感じます。掃除や庭の手入れも自分たちでやるし、トイレが水漏れしたらみんなで拭く。東京・自由が丘のオフィスも築70年くらいの一軒家なんですが、バスが通っただけで揺れます。風が吹いたら窓ガラスが「ばたばたばた」って鳴るし、隙間だらけで冬は本当に寒い。そんな場からしか、生活者に届く本は生まれないと思うんです。

キュウリづくりのような編集方針

 ――出版点数を年間20冊ほどにしぼり、「一冊入魂」を掲げています。書き手はどうやって見つけるのですか。

 ある方が書かれたものを読んで、執筆をお願いするのが基本中の基本です。

 ただ、書き手も編集者も生き物で、偶然の出会いがある。その時は本という形にするタイミングじゃないこともあって、書き手の気持ちが本当にそこに向いているかが一番重要。その時にぽーんっておりてくる書き手と編集者の間の「感じ」を、一番いいタイミングで本にしていくのが、うちの編集方針です。10年前に思いついて形になっていなかったものが、ふとした瞬間に動き出すこともあります。

 若いころは、「おれがこの書き手の本をつくるんだ」という気負いもありました。そこには「自分の力でなんとかなる」という傲慢(ごうまん)さも含まれていて、そう思っている限りは、自分でできることって限られてきます。

 ミシマ社で年2回発刊している雑誌「ちゃぶ台」で、周防大島山口県)の農家さんを取材しています。本当に素敵な方で「この畑は去年は全然だめだったけど、今年はこんなキュウリが育ったんです。一つひとつ違うんですよ」とおっしゃる。

 そのキュウリを畑でもいで頂くこともあるんですが、そのかけがえのなさは、個人の力ではないですよね。自然の声を聞いて、やれることは全部やった上で、あとは自然に任せる。ぼくもそんな本づくりをしたいと思うようになりました。

「なんとなく」の就活、出版業界へ

 ――本への強い愛を感じます。その愛はいつから?

 子どものころは、そこまで本好きだったって言えないんですよ。確かに小学生の時から本は読んでいましたが、本物の本好きに子ども時代の読書量を聞くと、「そんなに読んでたんや」って驚きます。

 大きなきっかけは、出版社に就職して、編集の仕事に出会ったことですね。ぼく、ぼんやり生きてきたんで、就職活動も「なにそれ」って感じで。ただ、新卒って一回限りだから、いろんな業種で働く人たちに一通り会って話を聞いたんです。慣れないスーツ着て。

 広告や金融は自分に合わないって感じたけど、ものづくりの会社の人とは気が合った。でも、車は好きじゃないから無理だし、食品もなあ、って考えていくうち、「出版社だったら休憩時間に本を読めそうだし」という程度の考えで出版を選んだら、1社受かりました。

 でも働き始めたら、思っていたよりずっと楽しくて。ぼく、学生時代から、思いがずっと空回りしてたんですよね。自分で「なんかおもしろいこと、できそうな気がする」って思うんやけど、それを周りにがーっとしゃべっても、ぽかんとされる。

 出版社で編集の仕事を始めると、自分の眠っていた感覚が生かされる感じがありました。ほんとに全身からパワーが出てきて、なんて楽しい仕事なんやって思えたんです。

 ――なぜ会社を辞めて独立することにしたんですか。

記事の後半では、三島さんが業界の不況に向き合う考え方について、「3割バッター」になぞらえながら語ります。

 結局、あのころは実績も技術…

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