広島・長崎の被爆者約8万人分の体験記を収めた通称「黒本」。それを活用した平和学習が長崎県内で進められている。被爆者が生前に記した体験記を読むことで、新たな出会いや発見が生まれている。
長崎市平野町の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館で5月、市立淵中学校の約150人が黙々と黒本に向き合っていた。厚生省(当時)が被爆50年などの節目に実施した健康調査に合わせ、収集した被爆体験記が黒表紙でとじられている。
祈念館の朗読ボランティア「永遠(とわ)の会」のメンバー6人が、黒本について説明する。1年生の鍵真生(しんおう)さん(12)は、曽祖母の名前と直筆の体験記を見つけた。
「……裏庭で洗濯物を干していた時ピカッと光るものを見ました。驚いて家の中に入りました」
鍵さんは「ひいおばあちゃんの名前が見つかり、(体験記の)コピーをもらった。戦争は良くないことがわかって、胸がいっぱいになった」と話した。
この日は、生徒6人の親族の名前が黒本で見つかったという。平和学習の狙いについて本田勝一郎校長は、「ご先祖さまに出会えたり、身近に被爆者を感じたりする機会になる」と語る。
被爆2世の高比良則安館長は「被爆者はつらい体験を子どもには話せなくても、孫やひ孫には話しておきたいと思うもの。体験談を聞けなくなっても、体験記を読むことで自分ごととしてもらいたい」と話している。(田井中雅人)
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