元Jリーガーの父「お前サッカー無理や」 天理4番が野球選んだ瞬間

浅田朋範
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 「プロ野球選手になってスタンドを沸かせたい」

 天理(奈良県天理市)の4番サード、内藤大翔(やまと)(3年)はそう話す。父はJリーグ鹿島アントラーズなどで活躍した内藤就行(なるゆき)(54)。現在はJ3チームのU―18監督を務める。大翔にとって父であると同時にあこがれ、目標だ。

 福岡県生まれ。父がサッカーを仕事にしていることもあり、生まれたときからボールが近くにあった。遊ぶとなれば決まってサッカーだが、小学校ではソフトボールもしていた。すでに才能の一端を見せており、父は「速い球にも反応してバシッと打てていた」と振り返る。

 岐路は小4。週末にサッカーとソフトボールの練習や試合が重なり、どちらか一つを選ばなければならなかった。

 選択の瞬間はサッカーの試合で訪れた。守備時にフリーキックの壁をしていて飛んできたボールを手で捕ってしまった。「もうお前サッカー無理やぞ」と父。

 ソフトボールでは低学年の頃からレギュラー。「純粋に楽しかった」こともあってソフトボールを選んだ。ぼんやりながら、プロ野球やメジャーリーグといった高いレベルでプレーしたいと思うようになった。

 「プロとして活躍するためには中学から硬式野球をやった方が近道だと思いました」。中学に入学するタイミングで奈良に越してきた。父がプロになるにはどこのチームがいいか調べてくれ、入ったのが「生駒ボーイズ」だった。

 サッカー選手の父と種目は違えど、プロの世界で活躍する姿を間近に見てきた。得点が入るとスタンドからは歓声が響く。「自分がゴールを決める側だったらどういう風に感じるんだろう」。この頃、プロ野球選手を本格的に志すようになった。

 生駒ボーイズの練習は厳しく、毎日1千回以上バットを振った。先のことも考えられないほど、きつい練習に取り組んだ。中学3年の2019年には日本少年野球春季全国大会に4番サードとして出場。「あの厳しさがあったから、高校に来て少し注目していただける選手になれているのかなって思います」

 天理との縁は、同じ生駒ボーイズ出身で1学年上の先輩に瀬千皓(せちひろ)(現・明治大学)がいたことだ。瀬は21年夏の奈良大会で4番に座っていた。生駒ボーイズの指導者から「人間性も磨かれる高校だぞ」と言われたことも後押しになった。

 天理に入ると1年生だった20年秋の県予選で公式戦にさっそく初出場。メンバー外の選手のためにも自分が活躍しないといけない。「下級生で試合に出ていることをプレッシャーに思っていました」

 プレッシャーを力に転じられるようになったのは、21年春の選抜大会の経験があったから。新チームで臨む21年秋の県予選前、共に春の選抜でプレーした現在の主将の戸井零士(3年)、南沢佑音(3年)と3人で「みんなをもう一度甲子園に連れて行こう」と誓った。

 そう考えると、心が軽くなった。もちろん、天理の4番を打ち、父が元Jリーガーということもあり、周囲からの注目は常に感じる。「そういうプレッシャーって自分にしか味わえないと思うんです。なのでそれを楽しんでいます」

 今後について、「あこがれのお父さんをまねしながら、自分もプロを目指します」。=敬称略

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 取材を通じて、球児たちのモチベーションが頂点をめざすことだけではないことに気づいた。性差、受験勉強、プレッシャー……。多様な環境や条件と向き合いながらボールを追う球児たちの思いに迫った。(浅田朋範)