ハッピーじゃない結末も 虫を描き続けてきた舘野鴻さん、初の物語集
徹底した観察と細密な筆致で、虫たちの姿を克明に描き出してきた、画家・絵本作家の舘野鴻(たてのひろし)さん(54)。「しでむし」「つちはんみょう」(いずれも偕成社)といったノンフィクション絵本でも知られ、虫の姿を通して、生のありようを問いかけ続けてきました。
5月刊行の初の物語集「ソロ沼のものがたり」(岩波書店)には、夜間学校で学ぶバッタの小僧、飛べないジャコウアゲハの恋など、虫たちを主人公にした九つの短編が収められています。「生き物を擬人化することに、ものすごく抵抗があった」と話す舘野さんに、虫を描く理由、虫への思いを聞きました。
――虫をずっと描き続けています。
虫なんか描いたって売れないし、虫が好きな人しか読まないでしょって、言われることも多いです。すごい時間をかけて、細密にリアルに描いているけれど、こんなの写真でいいじゃないかって、自分でも思いますよ。
でも、僕は虫と接してきた時間が長いので、自然と虫が主役になりました。それを描くことで、何か大きな普遍的なことが言えるのではないか、と直感的に思いました。
絵本を描く前は、図鑑向けの絵を描いたりしていました。図鑑の仕事は職人ですから、「誰よりもうまく描かないと仕事がなくなる」と思って、ものすごく、カリカリカリカリ描いていた。でも、図鑑に写真が使われるようになってきて、その図鑑の仕事自体がなくなってきちゃうんですね。
それで、科学絵本を描いたらどうか、と勧められて、この世界にたどり着きました。みんなが描かないようなもの、見苦しくて汚い嫌われ者にスポットを当てたいと思って描いたのが、最初の絵本の「しでむし」です。
虫の死骸があると、「汚いなぁ」とか言って、ピッて指ではじいたりしますけど、「こいつは、生まれて、死んで、生ききってここにいるんだぞ!」と言いたくなる。
人間よりも虫たちの方が、よっぽどけなげに生きていますよ。彼らは、無垢(むく)で、潔くて、勇敢。生きるために生きて、あっけなく死んでいく。そして死体をさらして、汚いもの扱いされて……でも、生まれて死ぬのは、人間も虫も同じです。
ハエが窓辺で餓死している。ミミズが車にひかれて死んでいる。それを別の生き物が食う。そういう生命のありさまを、彼らは一番よく見せてくれています。
虫を描き続けてきた舘野さんが、初めての物語集を出しました。バッタが夜間学校に通うなど、擬人化された虫たちも登場しますが、以前は「実在の生き物を、人間が安易に擬人化していいのか」と思っていたそうです。記事後半では、気持ちの変化や物語集に込めた思いを語ります。
恥ずかしかった
――「ソロ沼のものがたり」は初の物語集とのことですが、物語を書くことになったきっかけは。
7、8年ぐらい前、物語的なものへの興味と、「擬人化ってどういうことなんだろう」という疑問とが、僕の中にありました。
生き物を擬人化することに…