練習用ボール三つから始まった、55年ぶりに野球部復活 高知・嶺北

鈴木芳美
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 四国のほぼ真ん中、高知県の山あいのグラウンドに球音が響く。9日に開幕する第104回全国高校野球選手権高知大会(朝日新聞社・県高野連主催)に、嶺北(れいほく)が55年ぶりに出場する。

 本山町にある県立高校で、大豊、土佐、大川の3町村を加えた嶺北地域の唯一の高校。今年5月、地域と一体になって活動してきたことなどが評価され、県高野連に加盟が認められた。開幕日にある初戦に向け、練習に励んでいる。

 選手権大会100回史をひもとくと、49回大会(1967年)の南四国大会高知予選1回戦に「高知工6―1嶺北」の記録が残る。その後、嶺北の名が登場することはない。当時を知る関係者によると、部員不足で廃部になったとみられる。

 野球部復活への道は、2年前の入学式に始まった。新入生の三谷大翔君が同じ中学野球部出身の藤田一哉君らを誘い、校長室を訪れ、直談判した。

 「野球部を作ってほしい」

 集まった生徒は6人。指導役には前任校で野球部コーチだった学校職員の杉山和広さん(54)に頼んで就いてもらった。

 練習用のボールは三つ。グラウンドの草を抜き、キャッチボールを始めた。思いは一つ、「試合に出たい」。2年目には同好会に昇格した。

 そして3年目の今年、3人が加わり、メンバーは9人になった。5月に部への昇格が認められ、高野連に加盟申請。その後、さらに1人が加わった。

 主将になった藤田君は「うれしい半面、少し不安」と漏らす。やりたかった対外試合もできるようになったが、求められるものも大きくなる。

 過疎化が進む地域も盛り上がる。同校元PTA会長で少年野球チームのコーチとして三谷君たちをよく知る池添篤さん(55)らが、野球部後援会の設立を進め、今月2日に発足した。

 嶺北地域では高知市内などへ高校進学するが、高校の野球部があれば、地元に残る子どもが増える。池添さんは「地域活性化にもなる」と期待する。

 3年生6人にとっては、高知大会が最初で最後の公式戦。藤田君は「10人しかいないので万全な体調で臨みたい。練習してきたことをプレーで出して、応援してくれた人たちへの感謝の気持ちを伝えたい」。エースの三谷君は「守備では周りに声をかけ、楽しむことを大切にしていきたい」と話す。

 1回戦の相手は昨夏8強の高知東工。ヘルメットなど野球道具を譲ってくれた恩のある相手だ。杉山監督が部員たちの気持ちを代弁する。「結果を恐れず、9回まで野球をやりたい」(鈴木芳美)

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