「私が病気にならなければ、息子の人生は変わっていたのかもしれません」
北海道の地方都市。郊外にある公営住宅の一室で、そう話す女性(42)の目は、少しうるんで見えた。
昨年4月、全身の筋肉が徐々にやせていく難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)と診断された。そのころは、支えがあれば歩くことができた。いま、車いすに乗せてもらわないと、移動はできない。自室の介護ベッドで過ごす時間が長くなった自分の体が、もどかしい。
枕元のコールボタンは、すぐ隣の部屋にいる息子(18)とつながっている。
ひとり親として娘と息子を育ててきた。
22歳の娘は、ALSと診断される少し前、結婚と就職のためすでに実家を離れていた。息子との2人暮らし。高校3年生だった息子は「ヤングケアラー」になった。
日中は、近くにある重度訪問介護事業所のヘルパーがやってくる。トイレや食事の介助など身体的ケアのほか、掃除や洗濯、食事の用意といった身の回りのこともしてくれる。
ヘルパーがいなくなる夜間は、トイレに行くのも足の位置を変えるのも、息子を呼ぶしかない。症状が進み筋力が低下するにつれ、呼ぶ回数が増えてきた。
自分を気遣ってか、ほとんど外出しなくなった息子がたまに出かけると、なんとなく落ち着かない。「病気になる前は、寂しいと感じることはなかったんですけどね」。壁の向こう、勉強かゲームをしている気配を感じると、どこか心が安らぐ。
40歳すぎでALSと診断され、息子に支えられることになったシングルマザー。息子への感謝と心苦しさ、そしてもどかしさ。さまざまな思いを抱える女性が、今後を見据えてしたことは…。記事後半で紹介しています。
この春、息子は大学生になった。
中学生のころに「自分でパソ…