唯一の野球部員、一人だけの練習も頑張れる理由 大江・土永君

富永鈴香
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 そのグラウンドでは今日も、たった一人の高校球児が、3人の先生たちとともに練習に励んでいる。

 福知山市の山間部にある大江高校。唯一の部員、土永健嗣(たけし)君(3年)は先生の打つノックを捕り、一塁に送球するつもりでネットに投げる。走り込みには神崎蓮監督たちが付きそう。

 「自分のために練習に付き合ってくださり、ありがたいです」とはにかむ土永君。夏の京都大会は京都八幡、須知、京都教大付との連合チームで出場する。

 入学したときは違った。

 テニス部の助っ人の力も借りはしたが、大江は単独で出場。土永君は1年生からレギュラーになった。新型コロナウイルスの感染が京都府内でも拡大し、練習試合は一回もできないままで、初戦は「ぼろ負け」。それでも毎日一緒に過ごしたチームメートとの良い思い出になった。

 だが、3年生が引退すると、残ったのは土永君と1学年上の先輩の2人だけになった。気持ちを奮い立たせて練習に向かったが、ある日の練習前、その先輩が切り出した。

 「野球やめようと思うんだけど」

 寝耳に水で、すぐには返事ができなかった。寂しいけれど、先輩の気持ちを優先させよう。土永君はそう思い、練習終わりに自分から先輩に伝えた。

 「一人でも頑張ります」

 でも、一人だと部活がつまらなくなった。「先生や親とは話さない恋愛やゲームのことも、先輩たちとは話せたのに」

 時々引退した先輩が「大丈夫か」と聞いてくれたが、「頑張っていますよ」と答えるしかなかった。赤裸々に悩みを告げて心配を掛けたくなかった。

 2年の夏の大会は、京都教大付、京都八幡、朱雀との連合チームで出ることになった。守備位置は、土永君がやりたかった二塁手。でも、週末に4校で集まってする合同練習は、一人で輪に入っていくことの不安の方が大きかった。

 「今日はうまいこと話せるかな」

 自分から他校の部員に話しかけることが苦手で、お昼ごはんを食べる時も自然と一人になってしまう。大会中に仲間がミスしても、どこかひとごとのように感じた。チームにうまくなじめていなかった。

 しかし3度目の夏、土永君にはこれまでと違う感情が芽生えている。

 「みんなで野球ができる時間は楽しいです」

 連合チームの仲間とは、約1年いっしょに練習するうちに溶け込めるようになった。合同練習では、一人ではできない、外野からの返球を二塁で捕って三塁に投げるような連係プレーもできる。意見を出し合うミーティングも好きな時間だ。練習試合でヒットを打つと「たけし、ナイスプレー」と仲間から温かい言葉が飛ぶ。自分も仲間のために声を出す。

 「夏の大会は今までの練習をいかし、これまで関わってくれた人や先生にも恩返しをしたい」

 だから、一人だけの練習も頑張れるのだ。(富永鈴香)