「デジタル探偵」が迫る戦争の真実 NYTオープンソース報道最前線

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聞き手・城俊雄
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 誰もがネットでつながり、多くの人がSNSに情報を発信するデジタル全盛の今、メディアによる調査報道も新しい時代に入っている。欧米のジャーナリズムでは、調査報道について語る際、「digital sleuthing」が一つのキーワードになっている。直訳すれば「デジタル探偵」。無数にあるネット上の公開情報(オープンソース)から事実を掘り起こし、真実に迫るという意味だ。こうした分野でしばしば世界の注目を集めているのが米ニューヨーク・タイムズの「ビジュアル調査報道チーム」だ。2017年に新設され、犯罪や戦争、人権問題など多くのテーマで真相に迫るオープンソース調査を展開し、ウクライナ戦争をめぐってもロシアの主張を覆すスクープを連発している。現在、総勢17人のチームを牽引(けんいん)する一人が、ジャーナリストでシニアプロデューサーのマラキー・ブラウン氏だ。ブラウン氏にオープンソース報道の最前線とさらなる可能性について聞いた。(聞き手・城俊雄)

Journalism2022年7月号抄録【前半】

――ニューヨーク・タイムズがビジュアル調査報道チームを立ち上げた狙いとその役割を教えてください。

ブラウン インターネット上で得られる情報から、動画や映像などのエビデンス(証拠)を集め、それらを伝統的な取材と組み合わせて調査報道を行い、ニュースを解き明かしたい。こうした問題意識を出発点として2017年に実験的にスタートしました。このチームには二つの役割があります。膨大な量の動画や映像、音声、衛星画像などの中から見つけ出した情報を使って、ニュースを覆っている混沌(こんとん)とした霧を取り除くこと。そして反論の余地を与えないエビデンスを示すことによって権力監視を行い、真実を伝え、責任の所在を明らかにすることです。

――オープンソース調査に必要なスキルは。

ブラウン スキルを語る前に、私がまず必要だと考えているのは旺盛な好奇心を持つことです。ニュースや人物について可能な限りあらゆる情報を発掘したいというマインドです。これがオープンソース調査の出発点です。それを前提として、グーグル検索を含め高度な検索テクニックを駆使したり、フェイスブックなどのソーシャルメディアに巧みに入り込んだりして情報を発掘・収集する技術的能力が要求されます。扱うデータには、動画や写真の位置情報などの空間情報や、撮影された時間を特定するために必要な影の角度といった時間情報などがあります。動画のメタデータ(データ自体に関する情報)を見つける能力も要求されます。こうしたデータを使って(動画や写真の)撮影場所を特定するためのジオロケーションと呼ばれる方法は日常的に使っているスキルです。ジャーナリズムは情報のビジネスですから、組み立てようとしているストーリーに関連する全ての要素や断片情報を収集し、それらをつないで大きなストーリーを描きます。こうした情報収集のために新しい手法も見つけ出していきます。

――かつて米大統領辞任に発展したワシントン・ポスト紙によるウォーターゲート事件をめぐる一連のスクープで情報源となったのは「ディープスロート」と呼ばれた匿名の内部告発者でした。こうした伝統的な調査報道とはかなり異なりますね。

ブラウン オープンソース調査…

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