安倍政権が進めた「イノベーション」「安全保障」 研究力は回復せず

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嘉幡久敬、桜井林太郎、藤波優
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 歴代最長の計8年8カ月にわたり政権を担った安倍晋三・元首相のもとで、日本の科学技術政策は大きく変わった。「イノベーション」を旗印に、生産性重視の経済政策の中に組み入れられた。国立大を中心に行われてきた基礎研究は苦戦を強いられ、肝心の「研究力」は低下した。政策を振り返った。

 第1次安倍政権(2006~07年)では25年までの成長戦略の指針「イノベーション25」を策定した。座長としてとりまとめた黒川清・政策研究大学院大学名誉教授は、安倍氏について「小泉政権官房長官を務めていたころから科学技術の重要性は認識していた印象がある」と話す。イノベーションはその後、安倍政権の成長戦略の目玉になっていく。「先見の明があった」

 安倍氏は第2次政権の13年、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」を発表。いわゆるアベノミクスの「3本の矢」で、イノベーション政策を成長戦略の柱の一つにすえた。国の財政難に加え、産業競争力の低下、少子高齢化や地球環境問題などに対処する突破口と期待された。

 14年、内閣府設置法が改正され、科学技術の司令塔である総合科学技術会議(CSTP)は、イノベーションの促進も目的とする「総合科学技術・イノベーション会議」(CSTI)に改組された。学術研究者が主流だったメンバー構成は企業のトップ経験者など産業界中心の顔ぶれに変わった。18年からは、米スタンフォード大などで研究した経済学者の上山隆大氏が常勤議員としてとりまとめ役を担う。20年には科学技術基本法が科学技術・イノベーション基本法に改正され、イノベーションの創出が新たな目的に追加された。

基礎研究より応用研究に重点

 CSTIが経済財政諮問会議と連動するのも安倍政権の特徴だった。政権が毎年発表する年次計画「統合イノベーション戦略」は、経済財政諮問会議の基本方針を科学技術で実現する戦略といえ、基礎研究より応用研究に重点が置かれている。

 国の科学技術関係の予算額はこの10年、ほぼ維持されたが、イノベーションが重視され、国がトップダウン式に進める大型の研究プロジェクトが相次いで導入された。革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などだ。巨額の研究費のわりに経済効果は明確でなく、短期間で成果を求められたせいか、科学的裏付けがないまま発表したり、成果の新規性を誇張して発表したりする研究者が相次いだ。

 政権は一方で、基礎研究の成…

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