苦い記憶と向き合う金光大阪エース 受け継ぐ帽子…約束は色あせない
(17日、高校野球大阪大会2回戦 金光大阪5―1港)
今春の選抜大会で8強に入り、春夏連続の甲子園をめざす金光大阪は、エースの古川温生(はるき)が6回を投げて無失点と好投した。
最速144キロの直球とスライダーを低めに集め、被安打2、6奪三振。「緊張感はあったけれど、しっかり集中して投げられた」と汗をぬぐった。
チームは選抜後、どん底まで状態が落ちたという。春の府大会は5回戦で大商大堺に0-8で完敗。投打ともに精彩を欠いた。
横井一裕監督(47)は「自分たちが弱いんだということを再確認できた。夏に向けていい練習ができた」と振り返る。
古川も「過信していた自分がいた」と言う。この時期にメンタル面を鍛え直し、夏を前に「状態が上がってきました」。
昨夏の大阪桐蔭との準々決勝。1点をリードしていた八回途中に救援したが、逆転を許し、3―5で敗れた。
その試合直後。先発した1学年上のエース伊藤大貴さんから「頼んだぞ」と、使っていた帽子を託された。
昨秋の試合はそれをかぶって登板したが、選抜ではみんなと同じように支給された新しい帽子を使っていた。
最後の夏を前に、あえて苦い記憶と向き合うことにした。
バッグから伊藤さんに託された帽子を取り出し、かぶった。
「やっぱりこの帽子と一緒に戦う。先輩の分まで」
この日の試合後、観戦に訪れていた伊藤さんから「ナイスピッチ」と声をかけられた。
帽子のつばには、油性ペンでこう書かれている。
「約束」
春は8強まで進んだが、大阪桐蔭はそれを上回り、頂点に立った。夏、大阪から甲子園に行けるのは1校だけだ。
「あの日から『打倒・大阪桐蔭』で1年間やってきた。大阪桐蔭を倒すまでは絶対に負けられません」
王者を破り、1年前は届かなかった夏の大舞台へ――。先輩との約束を果たすまで、一人、色あせた紺色の帽子をかぶり、腕を振る。(山口裕起)