至学館・加藤主将を支えた一つのボール 気迫の走塁「やりきった」

三宅梨紗子
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(22日、高校野球愛知大会4回戦 星城3―2至学館)

 「俺に任せろ」。2点を追う八回表2死。至学館の加藤匠翔(たくと)主将(3年)は、そう言い切って打席に立った。狙い球を振り抜くと、左翼へ大きく伸びた打球を確認し、迷いなく二塁を蹴った。全力疾走で三塁へスライディング。「アウト」。審判の拳が上がった。

 「前の打者が倒れ、なんとかしたいと思っていた」。好機はつくれなかったが、気迫あふれるプレーにベンチが沸いた。

 「技術はないけど、気持ちだけは強い」。そう自分を評価する。100人を超える部員をまとめる主将として、弱気ではいられなかった。

 六回には二塁打を放ち、先制の本塁を踏んだ。七回裏、先発した加藤希投手(3年)が走者を背負うと、すぐにタイムをとってマウンドに駆け寄った。「後ろを見てみろ。守ってくれる野手がいるんだぞ」。深呼吸をするように伝え、笑顔で背中をたたいた。

 「中学の頃はマイナス思考だったけど、今はプラス思考」。高校野球が加藤主将を変えた。支えになったのは、一つのボールと監督からの教えだった。

 入部前、加藤主将に麻王義之監督が手渡したのは、2017年に至学館が選抜出場を決め、試合前のノックで使用したボールだった。加藤主将は自室に置いたボールを起床時と就寝時に眺め、「絶対に甲子園に行く」と誓いを立てた。「日ごろの行いからきちんとしよう」という監督の教えの下、地域の人へのあいさつやゴミ拾いを徹底した。

 気持ちの面でも自信をつけて臨んだ今大会。九回表にはチームが意地をみせ、1点を返したが、あと1本が出なかった。

 試合後、泣き崩れる選手もいるなか、加藤主将は「やりきった」と晴れやかだった。身につけたプラス思考で、前を向く。「後輩たちには、思いを継いで甲子園に行ってほしい。自分は大学でも野球を頑張るから」(三宅梨紗子)

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