不登校だったプロボクサー 6連敗からついに 10年かけて初勝利

伊藤雅哉
[PR]

 小中学生時代に不登校を経験したプロボクサーが、3年ぶりの復帰戦に挑んだ。

 23日、大阪市内。

 27歳の山田定幸(京都・WOZ(ウォズ)ジム)は、まだ勝利の味を知らなかった。

 ここまでの戦績は6戦6敗。惜しい試合もありながら、1勝が遠かった。2019年4月の試合を最後に引退していたが、再びリングに帰ってきた。

 バンタム級(約53・5キロ以下)4回戦。相手の選手も戦績は1戦1敗で、ともに初勝利をめざした。

 1回から山田は打ち合った。かつては「スロースターター」で、後半に追い上げるも届かない。そんな試合が常だった昔の面影は無い。

 この日は最初から距離を縮め、相打ち覚悟で攻めて出た。山田の左フックが相手の顔をはじく。一方で相手の左ボディーも当たり、「レバー(肝臓)にもらって効きました」。1回はほぼ互角だった。

 試合が急展開したのが2回だ。

 「まだまだスタミナはいける」と感じた山田は、前進を強めてさらに攻めた。すると、右がどんぴしゃでヒットした。

 相手が尻餅をついて倒れる。ダメージが深いと判断したレフェリーが試合を止めた。

 2回23秒。

 デビューから6年。ボクシングを始めてからは10年。「4ラウンド(12分間)殴り合うつもりだった」という山田が、3分少々でつかんだ初勝利だった。

 「あそこで終わるとは思っていなかったんですけど。勝っても負けても楽しもうと思っていました。もちろん怖さもありましたけど、リングに上がったらやるしかない。そんな気持ちになるのも、懐かしいなと」

 試合後の控室。いつも、それほど口数が多くない山田が、まくしたてるように話した。

 3年前に一度は引退。今年1月にトレーナーのアルバイトとしてジムに戻り、現役復帰への思いが芽生えた。

 小学4年の頃に同級生らにからかわれ、中学卒業まで家にひきこもった経験がある。ボクシング漫画「はじめの一歩」を読み、「自分も強くなれるんじゃないか」とボクサーを志した。その頃の気持ちを取り戻した。

 京都市内に住み、1周約2キロの二条城の周りを走りこんできた。自宅からジムまでは自転車で片道約1時間。雨の日も自転車で通うのは昔から変わらない。

 スタミナへの自信、もう一度ボクシングができる喜びが、山田に心の余裕を与えていたのかもしれない。

 「昔とは少し、気持ちが違いましたね」と笑った。

 控室では、ジムの仲間も大いにわいた。大森昌治会長(62)は感無量の表情で言った。

 「今までチャンピオンも育ててきたけど、今日は最高の勝利。まさかKOするとは。山田と同じように、デビューから連敗しているような選手の励みになってほしい。まだ強くなるよ」伊藤雅哉

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【10/25まで】すべての有料記事が読み放題!秋トクキャンペーン実施中!詳しくはこちら