読み手の人生変える力も 見田宗介「気流の鳴る音」が放つ危険な魅力

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太田啓之
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 今春、亡くなった日本を代表する社会学者見田宗介が、1977年に真木悠介名義で書いた主著「気流の鳴る音」。メキシコ・インディオの「呪術師」の教えを、現代文明の呪縛から人々を解き放ち「今を生きる歓(よろこ)び」へと導く言葉として読み解くなど、社会学の領域を超えた過激な一冊は、「完全自殺マニュアル」著者の鶴見済(わたる)さんら多くの人々に、人生が変わるほどの影響を与えてきた。この本、そして自らを「危険な思想家」と称した見田の魅力の核心にあるのは何か。かつて見田から直接学んだ記者が、謎につつまれた見田ゼミ名物「合宿」の経験も踏まえつつ、探っていく。

 東京都世田谷区の下北沢駅から徒歩5分ほどの路地裏に、約4坪の木造古書店・カフェ「気流舎」はある。店名は2007年に開店した際、店主が「気流の鳴る音」から採った。店主は12年に東京を離れたが、常連客らが引き継ぎ、無報酬で共同運営している。

 店のテーマは「カウンターカルチャー(対抗文化)」。1960年代のヒッピー文化のように、世の中で自明とされる価値観や制度を疑い、別の生き方や社会のありようを模索する思想・運動のことだ。それは「気流の鳴る音」の全編に通奏低音のように響き続ける主題でもある。

 著者名の「真木悠介」は、今春84歳で亡くなった日本を代表する社会学者、見田宗介のペンネームだ。見田は「真の問題に真正面から向き合い、悠然と追求していく」本を書く時にこの名前を使っていた。

分類しようのない書物

 この書物は決して社会学「だけ」の本ではない。副題の「交響するコミューン」が示すように、理想的な社会やそこでの人間の欲望のあり様を巡る考察、古今東西の思想や宗教への言及、旅のエッセーなどが混在する不思議な一冊だが、すべての言葉が「どのように生きたらほんとうに歓びに充(み)ちた現在を生きることができるか」(真木の著書「自我の起原」から)という、シンプルで本質的な問題意識に照準している。

記事の後半では、見田ゼミの合宿で記者自身が体験した「体が勝手に動き出す」不思議なレッスンや、「危険な思想家」としての見田さんの教えの核心へと迫っていきます

 ベストセラー「完全自殺マニュアル」の著者で、学生時代に見田ゼミに所属していた鶴見さんは「『気流の鳴る音』で絶対に読んで欲しい箇所」として「色即是空と空即是色」と題されたところを挙げる。

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