「清貧な独裁」というチュニジアの選択 「アラブの春」は終わるのか
かつて大統領による強権政治に苦しみ、中東の民主化運動「アラブの春」の起点となった北アフリカのチュニジアで25日、再び大統領に権限を集中させる新憲法案の是非を問う国民投票が行われた。民間の出口調査は賛成が92%を超えたと推定している。
政党の多くがボイコットを呼びかけたこともあり、選管当局によると、投票率は27%余りにとどまった。新憲法の成立に必要な投票率などの要件は定められておらず、選管当局は27日夕にも開票結果を発表し、新憲法の成立が宣言されるとみられる。
チュニジアでは2011年、反政府デモに端を発した「ジャスミン革命」で、ベンアリ大統領による23年間の独裁政権が崩壊。14年には、権力の分散や男女平等などを盛り込み「アラブ圏で最も民主的」と評される憲法が制定された。翌15年には、民主化の推進に主導的役割を担った労働組合など4団体からなる「国民対話カルテット」にノーベル平和賞が贈られた。
しかし、革命直後の制憲議会選でイスラム政党ナハダが第1党となると、行政機能が停滞し、汚職や治安・経済の悪化が深まり国民の不満が蓄積した。19年に就任したサイード大統領は昨年7月、首相の解任や議会の機能停止を宣言。汚職疑惑のあった司法機関を解散し、判事を罷免(ひめん)する一方、政治の刷新を掲げて新憲法案の起草を進めた。
ただ、既存政党との議論を欠いたまま、サイード氏主導で起草された新憲法案は、閣僚の任免に議会承認が不要で、裁判官の任命権も大統領が握る一方、大統領を解任する条項がないことから独裁色が強いとして、大半の政党が国民投票のボイコットを訴えていた。投票結果の正統性や新憲法の扱いをめぐり、混乱が広がる可能性がある。
チュニジアは今年8月、岸田文雄首相が出席して行われる日本主催のアフリカ開発会議(TICAD)の開催国になっている。
ジャスミン革命から11年
「新憲法への賛成92%」――。国民投票が締め切られた25日午後10時すぎ、国営メディアは民間機関による出口調査結果を速報した。待ちかねたように首都チュニスの目抜き通りに数百人が集まり、国旗を振って歌い踊り始めた。
「カイス・サイード。カイス・サイード」と国民投票を実施した大統領の名前を熱狂的に連呼する声。「さよならガヌーシ」とイスラム政党「ナハダ」指導者の退場を歌に乗せて叫ぶ人たちもいる。
ちょうど1年前、サイード大…
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