第113回「スマホ隠してたら10人殺す」 住民全員が監禁された村の28日間

有料記事ウクライナ情勢

チェルニヒウ州ヤヒドネ=高野遼
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 穏やかな日差しのなか、その村では子供たちがキャッキャと走り回っていた。

 「学校はどこにある?」

 「あっちだよ」

 女の子たちが教えてくれた方向に進むと、れんが造りの校舎が現れた。屋根は崩れ、窓ガラスは割れている。

 木の扉を開き、階段を下りる。薄暗い地下室には絵本や布団が散乱していた。

 静まりかえり湿った空気に、壁時計の秒針の音が響く。

 「ここに28日間、350人以上の住民がロシア軍によって閉じ込められていたのです」と管理人の男性は言った。

 壁には手書きで、10人分の名前と日付が記されていた。

 9日 ムジク

 10日 インディロ

 11日 ルダニ

 11日 ニクリナ

 13日 マカテル

 17日 ムジク

    ツィンバリスト

 20日 ドツェンコ

 24日 ボイコ

 28日 ブドチェンコ

 地下室で命を落とした人たちの記録だった。

 住民のほぼ全員が監禁された村。「あの日々を思い出すと、いまも泣きたくなる」と住民の女性は身をすくめた。

 4カ月前、この小さな村で何が起きたのか――。

 ウクライナの首都キーウ(キエフ)から車で北に2時間。チェルニヒウ州のヤヒドネは、人口300人あまりの小さな村でした。3月、ロシア軍はここで住民を「人間の盾」にして、1カ月近くにわたり地下室に閉じ込めました。過酷な監禁生活では10人が死亡。いまも人々は当時の記憶に苦しみ、子供たちは心にトラウマを抱えて生きていました。

地下に監禁、スマホは奪われた

 村にロシア兵がやってきたのは3月3日のことだった。

 兵士らは1軒ずつ民家を回り…

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