旅立った「現ちゃん」 14年後、元ちとせがたどりついた新作
歌い続ける上での羅針盤を失った。
2008年、歌手の元ちとせは、そんな感覚にとらわれた。
02年のメジャーデビュー曲を提供したミュージシャン上田現が、がん闘病の末、47歳の若さで亡くなったのだ。
元と、生まれ育った奄美大島の存在を世に知らしめたヒット曲「ワダツミの木」を手がけた人物だ。その後も「ハイヌミカゼ」や「千の夜と千の昼」などを提供し、数多くの楽曲の編曲にも携わった。上田は、自身の歌の方向性を定める力をくれる、かけがえのない存在だった。
「闘病中に一緒にレコーディングして、病気だと思わせないくらい元気に振る舞っていた。私も現ちゃんは治るってどこかで思っていた。旅立ってしまったショックは瞬間じゃなく後から大きくなるもので……」
上田が最後に提供した曲は、08年に発表したアルバム「カッシーニ」の1曲目に収めた同名曲だった。以来、15年にカバーアルバム「平和元年」などを発表したが、オリジナルアルバムの制作には踏み出せなかった。「現ちゃんという存在をなくしてしまい、どういうオリジナルの作品を残すべきか、っていうのが止まっちゃった」
前を向けたのは、それから14年後のことだった。
今年、デビュー20周年を迎…
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