第3回汗と消毒液のにおい、帰ってきた父も死んだ 僕は疎まれて転々とした

[PR]

 「泳ぎに行くか」

 普段は厳しい父が、暑い日は、僕(7)を川遊びに連れて行ってくれる。

 川の中で、大きな背中にしがみつく。僕も絶対、父みたいになるんだ。

 母はきれいで優しいけれど、来客がある日だけは注意される。

 「今日だけは、静かにするのよ」

 8月1日、母の実家に疎開した。

 数日後。母が弟の紘郎(こうろう)(1)と広島に少し戻るという。一人暮らしの父が心配になったのだと思う。

 「おじいちゃんとおばあちゃんのいうことをよく聞いてね。母さんは6日に帰るから、それまでいい子にしているのよ」

 出発の前日。そう言って、お風呂でぼくの背中を流してくれた。

 約束の6日。

 母が帰ってくる日だ。朝から楽しみだった。

 しかし、「広島がやられたらしい」と祖父たちが騒ぎ出した。

 7日も帰ってこない。

 駅の近くまで行き、汽車が着くたびに、母を探した。

 8日。一緒に疎開していた父方の祖母は、親戚が止めるのを振り切り、僕と広島へ向かった。

 広島で僕は立ち尽くした。

 建物がほとんどなくなってい…

この記事は有料記事です。残り1494文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
【10/18まで】有料記事読み放題のスタンダードコースが今なら2カ月間無料!
核といのちを考える

核といのちを考える

被爆者はいま、核兵器と人類の関係は。インタビューやコラムで問い直します。[記事一覧へ]