「勇退の監督を連れて甲子園に」 筑陽学園エースは誰よりも泣いた
(28日、高校野球福岡大会決勝 九州国際大付1―0筑陽学園)
両チーム無得点で迎えた七回裏1死一、二塁、打席に立ったのは今大会屈指の強打者、佐倉俠史朗君(2年)。筑陽学園は守備のタイムを取り、伝令の野田啓太君(3年)が江口祐司監督(59)の言葉を伝えた。「どうするんだ。歩かせてもいいぞ」。エース木口永翔君(3年)の答えは「勝負します」だった。
4球目の外角直球をはじき返されたが、二塁手の高木優作君(3年)のほぼ正面へ。併殺でピンチを脱し、木口君は両手をたたいてマウンドを後にした。
2年前に入部して間もなく、江口監督から「お前らが最後だ。一緒に卒業する」と伝えられた。体育の授業でも指導を受けた。その後、たびたび「自分が最後のことは気にするな」と言われたが、「監督を連れて最後は甲子園で終わりたい」と思った。
木口君は今大会、打者1人を除く全てのイニングを投げた。仲間も準々決勝と準決勝で逆転してもり立てた。「人生を懸けて投げてこい」と言われて送り出された決勝も1人で投げきった。7試合で計973球。あと一歩届かなかった。
閉会式後、江口監督は選手らを前に「仕方ない」と声を震わせた。「準優勝」の賞状を持った木口君が、誰よりも嗚咽(おえつ)していた。(椎木慎太郎)
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