3人の娘に言うことがバラバラな父。財産が絡んで娘たちは険悪に……

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松本一生
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 ついさっき自分に答えていたことと、いま隣で兄や姉に話していることが全然違う……。そんな経験ありませんか。戸惑いますよね。認知症が原因でも、覚えていられないのではなく、別の場合もあるようです。どう対応したらよいのでしょうか。精神科医の松本一生さんが解説します。

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 私たちは認知症の本人の気持ちを察し、その人が望むようなケア、医療を提供したいと考えています。ケアや医療の世界では「パーソン・センタードケア」という概念が一般的になっていて、ケアを受ける人の視点に立ったケアがおこなわれます。しかしその善意に満ちたかかわりに対して、時には認知症の人から、首をかしげたくなるような反応が出ます。そんなとき、私たちはどのように対応するのが良いのでしょうか。今回も個人情報保護の観点から、私が経験した例を少し脚色して紹介します。

同じ質問にも、まるで違う答えで返す

 認知症は「ものを忘れる」病気であると言われますが、認知する働きだけではなく、ものごとをしっかりと理解して段取りを考える力が低下してくる場合があります。大脳の横側の側頭葉が萎縮し、側頭葉の毛細血管に小さな脳梗塞(こうそく、微小脳梗塞:ラクナ梗塞)ができると、特徴的な症状が出ます。その一つが、目についたものを何でも物を運ぶクリューバ―ビューシー症候群です。食べられないものであっても、なぜか口に運ぶ症状です。

 それ以外にも「作話傾向」が出てくるのも特徴です。「作話」などと書くと、何だか意図を持って話を作っているイメージが出てくるかもしれませんが、側頭葉が変化した認知症の人は、全く意図せず目の前にいる人の質問に話を合わせ、横にいる人が全く同じ質問をするとまるで違う答えを返すことがあります。その時にパッと頭の中に浮かんだイメージで答えてきます。側頭葉は「今、ここで経験した記憶をメモする」脳のメモ帳のような働きもしますので、直前に言ったことを覚えていない傾向も出てきます。そこで課題となるのが、「その人の答えの一貫性のなさ」なのです。

3人の娘に、言うことがバラバラな父

 数年前のことです。一般的に初診の場合、患者さんや家族は初めて出会う医者がどういう人なのか、緊張しながら「おそる、おそる」診察室に座るのが一般的な光景です。しかし山田慎吾さん(仮名:前頭側頭葉変性症 84歳、男性)の初診は全く異なっていました。初診に同伴した3人の娘さんが一目散に私の診察机の前に陣取って「うちの父は嘘(うそ)つき病です!」と告げてきました。

 聞けば長女は東京に在住、次…

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