小さなパン屋の作業場の窓に薄明かりが差し込んできた午前4時ごろ。
パンを作っていた渡辺好一(よしかず)さん(81)は足を滑らせて転んだ。
「もうやめる」
そう言った夫に妻チサさん(79)が言った。
「もうちょっと頑張ろうよ」
だが、好一さんの決心は固かった。
病気を患い、足を引きずって歩くようになっていた。
「けじめをつけないといけない」
7月末、夫婦で45年営んできたパン屋を閉じると決心した。
突然決まった閉店。事前に告知する間はなかった。
お客さんに伝えたいことを書き記し、店のシャッターに貼った。
「この度体力の限界により閉店させて頂きたくご挨拶(あいさつ)申し上げます 45年間の御愛顧を賜り誠に有りがとうございました」
それから数日後、想像していなかったことが起きた。
「ワンワンのパンおいしかったです。りのより」
閉店を伝える貼り紙の下に、子どもの字で、こんなメッセージが貼られた。
それだけでは終わらなかった…
【10/25まで】すべての有料記事が読み放題!秋トクキャンペーン実施中!詳しくはこちら