(魂の中小企業) 失われる自由な時間を求めて 【前編・父の掟】

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 大阪市に「ジタン・マーケティング」という会社があります。3年前にできた会社で、ホームページづくりやウェブのコンサルティングをしています。

 社長は石田美穂さん、45歳。

 夫は公務員。大学生をかしらに3人のお子さんがいます。

 子どもを過度に束縛しようとする昭和の父親。建前では「男女雇用機会均等だ」と言いながら、裏では女性を軽んじてきた男たち。

 家事代行を頼む女性に冷たい視線を突き刺す男たち。

 そんな男たちに、石田さんは苦しみます。自分のしたいことをガマンして、ガマンして、ガマンして。失われていく自由な時間。それを取り戻そうと石田さんは奮闘し、今があります。

 こんかいは前後編の2回にわけて、石田さんの半生をたどります。

 わたしを含めた昭和生まれの男たちは、大いに反省しなくてはなりません。

     ◇

 石田は、東京の世田谷区に生まれた。経営者だった父は、会社の中だけでなく、家族の中でも大きな権力をもっていた。父の考えは絶対である。看護師だった母は結婚して早々に看護師をやめ、石田を筆頭に5人の子どもを生んだ。

 父は、子どもたちに、いくつもの厳しい掟(おきて)を課した。その掟は、高校生になるまで子どもたちを縛る。

 一つ、夜は8時に寝なければならぬ。

 当時のテレビでは、「8時だョ!全員集合」が国民的番組だったが、見ることは許されない。だから、小学校のクラスで話に入れない。芸能人の話題にもついていけない。

 一つ、朝は5時に起床せよ。

 石田たちきょうだいは、何があっても起こされた。そして、宿題があるものは宿題をして、ないものは本を読む。

 一つ、門限は夕方5時。

 父は夕方5時に仕事を終えて、家に30分ほど歩いて帰ってくる。夕方5時半、家族全員そろっての夕食だ。

 一つ、友だちの家に行ってはならぬ。

 級友たちは、それぞれの家で誕生日会を開いていた。石田は行けなかった。

 このように、平日はがんじがらめ。石田は、ガマン、ガマン。

 では、土日はどうかというと、たびたび、こんな週末があった……。

 そのころは、土曜日も午前中は学校があった。学校が終わって家に帰ると、家族みんなで車に乗りこむ。行き先は、神奈川県の三浦半島。父が持つ船に乗って、日本各地へ船で行く。土曜と日曜の夜は、船の上で過ごす。月曜の朝4時におきて、三浦半島から東京へもどって学校へ。

 父は言った。

 「子どもに人権はないから、私の言うことは聞け。20歳を過ぎたら人権がある。ただ、いっさいの面倒をみないからな」

 石田の小学生のころの夢、それは、ふつうに自由になりたい、だった。

 中学に上がる。門限、就寝、起床など、すべてそのまま。そこに、掟が加わる。

 一つ、駅に近づいてはならぬ。

 カラオケ、飲食店など、さまざまな店があるから、近づくなというのだ。

 中学生のあこがれ、それは若者の街、渋谷だった。駅から30分ほどで渋谷駅である。

 「友だちと遊ぶ」「公園にいく」

 そんなウソを言って渋谷にいく。だが、夕方5時に家に帰らなくてはならない。何かのトラブルで電車が止まったら大変なことになるので早めに行動し、時には、吐きそうになりながら走った。

 そして、相変わらず土日は船に「拉致」されてもいた。

 父が出張で帰ってこないとホッとした。石田は不謹慎だけれど、祈ったことがある。

 〈お父さん、このまま帰ってこないで〉

 中学2年のとき、父に言われた。

 「高校には行かせない」…

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