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ブタからの臓器提供「もう手が届く」 米で報告、進む遺伝子改変技術

後藤一也
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 ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植」の動きが活発になっている。米国では、移植したブタの心臓が、亡くなるまでの60日間、患者の体内で動いたと報告された。日本でも研究は進む。臓器提供者(ドナー)の不足が世界的な課題とされる中、将来の異種移植が現実味を帯びつつある。

 米国の報告は今年1月にあった。米メリーランド大学が、ブタの心臓を男性患者に移植。患者は重い心不全で、ほかに治療法がなかったという。その後亡くなったが、異種移植の研究者からは「大きな一歩」と評価されている。

 米ニューヨーク大学も6月と7月に、2人の脳死の患者にブタの心臓を移植したことを発表した。実際の患者に移植するための前段階としての研究的な位置づけだが、2人の生命維持装置を外すまでの3日間、拒絶反応もなく心臓は機能した。

 1978年に拒絶反応を抑える薬が登場し、米国では一気に臓器移植が広がった。移植待ちの待機リストの患者はどんどん増え、ヒトからの移植では足りなくなってきた。

 それを解決する一つの方法が異種移植だ。

 ブタとヒトは臓器の構造や機能が近いとされる。また、食用として日々、十分な数が飼育されていて、1頭から複数の子どもが生まれ、成長も早い。家畜としての歴史が長く、感染症のリスクも予測しやすい。

 課題は拒絶反応だった。ヒト同士の拒絶反応は薬で抑えられても、ブタとヒトは近い種ではない。

 90年代ごろに遺伝子を改変する技術が進んだことで、解消の道筋が見えてきた。

 とくに、ここ10年ほどで、ねらった場所で遺伝子を壊したり、加えたりして改変する「ゲノム編集」が登場し、人に移植しても拒絶反応を起こしにくい遺伝子改変ブタの作製は大きく進んだ。

 メリーランド大学の移植で使ったブタは、四つの遺伝子の機能を失わせ、ヒトの六つの遺伝子を加えている。

 異種移植の研究は欧米でさかんだが、近年は中国なども熱心に取り組んでいる。心臓だけでなく、腎臓や膵島(すいとう)の移植も研究が進む。

 日本でも糖尿病治療のための、ブタの膵島移植が計画されている。今年度からは、神戸大学でも異種の膵島移植をめざす研究室が立ち上がった。

 ブタの異種移植の研究に長年取り組む明治大学の長嶋比呂志教授は「異種移植は、もう手の届くところに来ているのでは」と話す。

 ただし、残された課題は少なくない。

 メリーランド大学で移植を受けた男性患者は、移植して60日後に亡くなった。ブタの臓器にダメージを与えるウイルスの感染も確認されているが、亡くなった原因ははっきりとわかっていない。

 ブタを無菌状態で飼育し、手術室までどうやって運ぶのか▽今回は移植直後の「超急性期」の拒絶反応は乗り切ることができたと考えられているが、数カ月以上経ったときに慢性的な拒絶反応をどう乗り切るか――など、検証すべきことは多い。

 倫理面の課題も残る。いくら技術的に異種移植が可能になっても、人々に受け入れられなければ、現実の医療として普及していくのは難しい。

 生命倫理が専門の東京大医科学研究所の神里彩子准教授は「異種移植の倫理については、日本ではあまり議論されなかった。一度、しっかり考えるべきだ」と指摘する。(後藤一也)