「うそつき」と言われて「異常者」にもなれた 変幻自在の酒向芳さん

有料記事

斉藤勝寿
[PR]

 「さこう・よし」と読む。

 名前はわからなくてもこの顔をみれば「あぁ、あの俳優」とわかるだろう。「リコカツ」の頑固なおやじ、「最愛」では消息不明の息子を探す父親、「逃亡医F」の大学教授など最近のテレビドラマで毎クールごとに違う顔を見せている。

 岐阜県生まれの63歳。小学校の低学年で見た学校演劇の「にんじん」に感動したのが俳優活動の原点だ。テレビドラマも大好きで、高校の文化祭では衣装を借りて、歌手の東海林太郎の物まねをして大受けした。そのことを自信に、俳優になる決意を固め、神奈川の多摩芸術学園に進学、演劇を学んだ。

 しかし、道のりは順調ではなかった。受けた劇団はことごとく不合格。ようやく入団した劇団でも苦労の連続だった。「俳優では食っていけず、土木作業員や古紙回収などありとあらゆるアルバイトをしました。その時の人間観察が今に生きているともいえます」

 長い無名の役者暮らしだったが、転機はまず46歳の時に訪れた。「泥の河」で知られる小栗康平監督の「埋もれ木」(2005年)に起用されたのだ。「それまでなかったような大きな役だったので、がんばらなきゃと気負って臨んだのです」

 その気負いが空回りしていたのだろう。小栗監督からたしなめられた。「俳優も映画の一部だから。君の周りにいろいろなものがあるだろ。椅子もあれば、棚もある。君はあれと同じだから」

 小道具と同じと言われて最初はがくぜんとしたという。「その半面、肩の荷がおりたことも確か。無理して受けるようなことをしなくてもいいんだと自然体で演じられるようになりました」

 約4年後、「うずめ劇場」を主宰するドイツ人の演出家ペーター・ゲスナー氏からさらに衝撃的なことを言われる。物語の終盤で一糸まとわぬ姿になる「ねずみ狩り」という舞台に出演することになり、稽古が始まり数日たった頃だった。

 「君はうそをついている。自…

この記事は有料記事です。残り845文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
【10/18まで】有料記事読み放題のスタンダードコースが今なら2カ月間無料!