大人の前評判くつがえす夏の球児たち コロナ禍で跳ね上がる成長曲線

山口裕起
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 野球が大好きなのに、好きなだけできない。楽しみにしていた試合が次々と中止になる。

 いま目の前にいる球児たちはそんな2年半を過ごしてきた。

 高校野球の担当記者となり2年が経つ。各地へ取材に行き、時には電話やオンラインで球児たちの声を聞いた。

 すべての球児が憎んでいた。

 「コロナのせいで」「コロナがなければ」

 球児たちの悲しそうな表情を見ていると、自分の高校時代が恥ずかしくなった。熊本の県立校の野球部員だった私は、好きなだけ練習ができる環境にあった。

 放課後だけでなく、授業前の早朝でも昼休みでも。グラウンドは自由に使えた。

 それでも、雨が降れば仲間たちと喜んだ。

 「よし、練習が休みかも。もっと降れ、もっと降れ」と。

 自分たちではどうすることもできない感染症に振り回されてきたいまの3年生たちは、プロ球団のスカウトから低い評価を受けてきた。

 「不作の年」だと。

 この夏、その見方が変わりつつあるようだ。

 あるスカウトが言う。「去年の夏や今年の選抜で目をつけていた選手が、格段に成長している」

 手元のメモでは、通常2、3行ほどで終わるはずの書き込みや選手の評価が赤ペンで次々に上書きされているという。

 練習量も実戦の機会もコロナ以前に比べれば減ったのだから、体力作りや技術の向上が遅れるのは当たり前だ。

 それでも、こつこつと鍛錬を重ねてきた。だからこそ、球児が描く成長曲線は前例のないものになるのだろう。

 コロナによる制限が徐々に緩和され、この夏、代表の49校は地方大会を勝ち上がるなかで一気に経験値を上げられた。

 たどり着いた甲子園という夢の舞台が、背中を押してくれることもあるのだろう。

 この日、山梨学院を破った天理(奈良)の4番戸井零士(れいじ)は右へ左へ3安打を放った。

 4強入りした昨春の選抜は4試合で11打数1安打。1回戦で敗退した今春の選抜は1安打に終わった。4カ月半前と比べても、スイングの強さは増し、対応力も上がっているように見えた。

 選手と一番近くで接してきた指導者も、驚いている。

 6日の開幕試合で国学院栃木に敗れた後、日大三島(静岡)の永田裕治監督(58)はこんなことを言っていた。

「いまの3年生は2年前、キャッチボールもまともにできんかった。その成長ぶりは私の想像をはるかに超えてくれた」

 そう強く感じさせられたのが静岡大会の準決勝の掛川西戦だったという。

 タイブレークの延長十三回に2点を勝ち越されたが、その裏に3点を奪ってひっくり返した。20年春に就任し、いまの3年生とともにコロナ禍を歩んできた。たくましくなった姿に、目頭が熱くなったという。

 この日の第4試合に登場する興南(沖縄)は、コロナの影響で今春の県大会を辞退した。

 主将の禰覇(ねは)盛太郎は「苦しかったけれど、チーム全体として、夏に入って、ようやく振る力や投げる力がついてきた」と言った。

 あるスカウトに話を聞いていると、ぽつりと漏らした。

 「今年の大会は例年以上に我々の眼力が問われることになりそうだよ」

 野球が好きな気持ちを抑えつけられるような2年半を過ごしてきた球児たち。その代表が集った大会はまだ3日目。

 緩やかだった成長曲線がぐんと跳ね上がる。大会が終わったあと、「豊作の秋」が訪れることを楽しみにしている。(山口裕起)