「俳句の種を蒔き続ける」 俳人・夏井いつきさんの誓い

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西秀治
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 俳人の夏井いつきさん(65)がエッセー集「瓢簞(ひょうたん)から人生」(小学館)を刊行した。「女性セブン」誌の人気連載に大幅加筆した。これまでに出会った人々や忘れ得ぬできごとを軽妙な筆致でつづっている。秘話や裏話が満載だが、全編を貫いているのは「俳句の種を蒔(ま)き続ける」という誓いを全うしようとする純粋な思いだ。

 30歳を過ぎたころ、住んでいる松山市で初めて句会に参加した。「俳句なんてのは棺桶(かんおけ)に足を一本入れてから始めても遅くないよ」とからかわれた。松山は正岡子規高浜虚子らを生んだ俳句王国。「瓢簞から人生」には〈大丈夫か、俳句の都。これでいいのか、俳句界。ひょっとすると、百年後に、俳句は根腐れしているかもしれない。そんな危機感を勝手に抱き始めたのだ〉とある。

 「後世、日本史の教科書に『昔、俳句という文芸がありました』と載るようになったらどうしようと思って始めたのが、俳句の種蒔き運動だったんです」と振り返る。そのために、8年間続けた中学校の国語教員も辞めた。

 種蒔きの手段の一つが「句会ライブ」。今も全国で年間70回から80回開く。「行脚の人」だ。会場に来たお客さんに、5分で1句できる型を一つだけ教え、俳句を作ってもらう。休憩時間に夏井さんが選句し、決勝に残った7句から参加者全員の拍手で1位を決める。これが基本形だ。

 〈俳句集団「いつき組」組長を名乗りつつ、仲間たちと続けてきた俳句の種蒔きは、子どもたち→学校の先生→子どもの親→地域の人→一般の大人たちという具合に、年代や層を少しずつ広げながら展開してきた〉と本にある。「いつき組」は25年ほど前に自然発生した。〈俳句って楽しい! と思った人は、勝手に名乗って〉〈「名乗るついでに、身近な人たちに俳句の種を蒔いてね」とお願いする。ただ、それだけの俳句集団だ〉

 高校生による俳句大会「俳句甲子園」も立ち上げて毎年開催し、今年は第25回大会を迎える。テレビ番組「プレバト!!」などメディアへの登場も、種蒔きの一環だ。

 俳句はたった17音だが、その力を実感したエピソードも本で紹介している。

 夜の小料理屋。偶然、その日の句会ライブに参加した同年配の女性がいた。大好きな夏井さんの句があるので書いてほしいと頼まれた。「どんな句?」と聞くと、「なみだより、すこし、つめたき……」と言ったところで号泣し始めた。一緒にいた女性の妹が言うには、女性は半年前に夫を亡くしてから一度も泣いていなかった。

 句は〈泪(なみだ)より少し…

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