朝日歌壇8月14日 高野公彦 永田和宏 馬場あき子 佐佐木幸綱選

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 8月14日付朝日歌壇の入選歌40首をお届けします。選者は高野公彦さん、永田和宏さん、馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん。☆印は共選作です。

高野公彦選

 地に戦終わらず墓標また墓標悲しみだけを足してゆく夏(福島市)美原 凍子

☆ゼレンスキー氏がユニクロのCMに出るようなそんな日が早く来てほしい(前橋市)西村  晃

☆マイク持つ安倍元総理に写りこむ犯罪者となる前のその顔(一宮市)園部 洋子

 「民主主義守る国葬」国会の議論も経ずに決定をする(観音寺市)篠原 俊則

 極楽の余り風吹く 鎌おいてたぶの木かげに帽子とるとき(新潟市)太田千鶴子

 草刈りの媼に一札汽笛をば鳴らしつつ行く秩父鉄道秩父市)畠山 時子

 通訳がキャッチボールの相手する大谷先発前日のこと(対馬市)神宮 斉之

 デスマスク哲人のごとき鷗外の恋の歌読む星祭の夜(中津市)瀬口 美子

☆孫の名で借りては倹約せぬ祖父母 赤字国債平たく言えば(小山市)木原 幸江

☆一学きのお楽しみ会 教室に大きなピタゴラスイッチ作る(奈良市)山添 聡介

 

 【評】一首目はこの地球上に絶えない戦争を憂い悲しみ、二首目は平和への希求をユーモア混じりに詠む。三首目、あのとき偶然写り込んでいた銃撃者の顔をクローズアップし、公衆の面前で平然と行われた犯罪の恐ろしさを歌う。

永田和宏選

 知らぬ間に減便廃線過疎の足返したくても返せぬ免許(岡山市)伊藤 次郎

☆ゼレンスキー氏がユニクロのCMに出るようなそんな日が早く来てほしい(前橋市)西村  晃

 幾人が死に幾人が泣きいるか木下に夏の落ち葉掃く午後(堺市)丸野 幸子

☆孫の名で借りては倹約せぬ祖父母 赤字国債平たく言えば(小山市)木原 幸江

☆マイク持つ安倍元総理に写りこむ犯罪者となる前のその顔(一宮市)園部 洋子

 税金で国葬にすることの是非問われるうちはまだ安全か(札幌市)住吉和歌子

 缶ピース長髪下駄履き思草寮まだ何者でもなかった私(観音寺市)篠原 俊則

 華氏でなら一〇〇度を超ゆる計算に実感しおり今日の猛暑を(舞鶴市)吉富 憲治

 私に年輪あるなら見てみたい多分十八、五十二に乱れ(大和郡山市)四方  護

 「ふうん、そう」とか「なるほどね」とか受けとめてくれたらそれでいいんだよ(大阪府)芹澤 由美

 伊藤さん、高齢者は免許の返納を勧められても、高齢者ほど返せぬ事情がある。西村さん、発想の意外性と大胆さに拍手。「そんな日が早く」と。木原さん、孫の代になっても返せそうにない赤字国債、我々はどう責任を取るのか。

馬場あき子選

☆投げっぷり倒しっぷりがすごくって母じゃない母を知るボウリング富山市)松田 梨子

 スーパーへ超速のペダル列をなす農の休みの異国の青年(行方市)額賀  旭

 明日は抜く奥歯にメロンを味わわせ八十年の労をねぎらう(蓮田市)斎藤 哲哉

 傍らのおやつの桃を食みつつも棋士は鋭い視線外さず(南魚沼市)木村  圭

 早苗食ひしジャンボタニシを餌として腕に覚えの鰻筒浸(つ)く(和歌山県)市ノ瀬伊久男

 娘我(われ)が言はせてゐるのか生きてゐてしゃあないねえと老いたる母に(水戸市)檜山佳与子

 短冊におとなになりたくないと書く園児に背負わすこの国の負債(名古屋市)吉田 周子

 この塩はもと沖縄の海だつた胡瓜を揉めば涙の味す(羽咋市)北野みや子

 マリトッツォ作る手立ても銃作る手立ても検索できる「便利さ」(観音寺市)篠原 俊則

☆一学きのお楽しみ会 教室に大きなピタゴラスイッチ作る(奈良市)山添 聡介

 【評】第一首は一家でボウリング大会か。お母さんの実力がすごい。子供としての驚きが楽しく面白い。第二首は外国からの技能実習生。休暇の一日の買い物の楽しみが超速のペダルにある。第三首の上句はちょっと呆(ぼ)けの味わいがある。

佐佐木幸綱選

 休むなくあまたの帽が上下して遠泳の子ら沖へと向かう(逗子市)織立 敏博

☆投げっぷり倒しっぷりがすごくって母じゃない母を知るボウリング(富山市)松田 梨子

 朝早く田んぼにいるのは白鷺と雉子と五位鷺(ごいさぎ)吾とカルガモ(山口市)藤井  盛

 野仏に供える黄菅二本剪(き)り今日の畑の仕事を終(しま)う(蓮田市)斎藤 哲哉

 飴色に変わった竹のものさしが三本出てくる母の引き出し(横浜市)杉本 恭子

 燕らも色濃き早稲(わせ)を好むらし休耕田は迂回して飛ぶ(金沢市)前川 久宜

 青春を懐かしむなよいまここが自分の生の頂きぞ、よしっ(和泉市)長尾 幹也

 千体仏数えてみれば千四体蔵雲禅寺の和尚は笑う(豊岡市)玉岡 尚士

 老いてゆく未知の経験始まりてまず美しきパジャマを買おう(北九州市)小長光吟子

 「ヤバイ」とも「めっちゃうまい」もつぶやけばなにやらはずかしやっぱりやめとこ(松戸市)猪野 富子

 【評】第一首、沖へ向かう遠泳の一団を遠望している場面。ていねいな描写が印象的。第二首、はじめて母とボウリングをしたらしい。投げっぷり倒しっぷり、よほどすごかったのだろう。第三首、広々とした早朝の田が眼(め)に浮かぶ。