「学問の神様」にも鬼や土蜘蛛の妖怪伝説 魔界につながる古都の街角

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河原田慎一
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 夏の京都市内は蒸し暑い。貴船や保津川へ納涼に出かけるのもいいが、「妖しげなもの」に思いをはせて、肝を冷やすのはどうだろう。古都の街角は思わぬところで「魔界」につながっているのだという。

 今は昔。

 現在の地下鉄四条駅から徒歩5分ほどのあたりで、住民の女性が、牛車が通るような車輪の音を聞いた。

 ガラガラガラ、ゴトゴトゴト……。

 人通りのない、こんな夜中になに? そう思った女性が表に出ると、そこにいたのは、対になっていない片方だけの車輪の妖怪。

体を引き裂かれ……

 妖怪に「家の中を見てみろ」と言われて慌てて見ると、娘が体を引き裂かれ、体の半分が車輪に引っかかっていた――。

 ぞっとする話は、江戸時代の「諸国百物語」に伝わる「片輪車」という妖怪のくだりだ。

 「妖怪とは元々『あやしい物事』なんです。語られていただけのものが江戸時代に、姿形のあるキャラクターになっていきました」

 こう教えてくれたのは、京都先端科学大講師で文化史を教えている木場貴俊さん。「ゲゲゲの鬼太郎」から妖怪の世界にのめり込み、そのまま妖怪研究の道に入ったエキスパートだ。

 木場さんと待ち合わせたのは、片輪車が現れたという京都市下京区の街角。東洞院通と仏光寺通の交差点のあたりだ。郵便局や古くからの商店、町家を改装したおしゃれなカフェもあり、行き交う人は多い。こんなところに夜、片輪車がガタガタやってきたらと思うと、背筋が寒くなった。

 仏光寺通を西に進むと、壬生(みぶ)寺(中京区)に行き着く。ここで出たという妖怪は「宗源火(そうげんび)」、いわゆる火の玉だ。ただ、火の中に苦悩にゆがんだ男の顔があるというから、さらに怖い。

 昔、壬生寺にいた宗源という僧侶が、寺の灯明に使う油を盗んでいた報いで、地獄の苦しみの末に火の玉にされてしまったらしい。新撰組ゆかりの寺として観光客に人気の壬生寺に、そんな妖怪がさまよっていたとは。

 木場さんによると、妖怪には片輪車のように「不吉を知らせるもの」のほか、宗源火のように仏教上のいましめや教訓を伝えるものもあるという。

 壬生寺の裏手、南北にのびる千本通は、昔は朱雀(すざく)大路と呼ばれ、平安京メインストリートだった。壬生寺のあたりから、千本通を北に約1キロ行ったところのなかほどには朱雀門があったとされ、その楼上には鬼が住んでいたという。

 「鬼も妖怪に含みますが、人間が道を踏み外したものが鬼。人間に近い姿でも、角が生えているなど人とは違う存在として差別化されています」

 平安時代、この鬼を刀で切っ…

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