「好きなことやって、おまんま食える」 昭和の職人に学ぶ自立した生

土屋弘
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 豆腐作りや洋服の仕立て、刃物鍛冶(かじ)……。こんな手仕事を生業(なりわい)にする職人たちから聞き書きした「なりわい再考」(地湧(ぢゆう)社)を出版した。取材したのは約40年前。「コロナ禍で暮らしや働き方が変わろうとしている今だからこそ、昭和の職人の語りに耳を澄ませてほしい」

 水田が広がる長野県佐久市内の山里に、そばと創作料理の「職人館」を開業して30年。地元の食材にこだわる名店として知られ、首都圏などからわざわざ足を運ぶ常連もいる。

 旧望月町出身。役場職員だった30代のころ、大量生産・大量消費の風潮に疑問を感じ、各地の職人を訪ね歩いた。仕事は長時間で暮らしはつましいが、みんな「好きなことやって、おまんま食えるんだもの」と悠然としていた。「勤め人の仕事とは全く逆を向いている」と衝撃を受けた。百数十人を取材して月刊誌に連載。これをきっかけに役場を辞め、料理人に。

 著書では、男女20人がものづくりへの思いを語っている。多くが後継者に恵まれず、今は仕事場の跡さえ残っていない。だが、最近はその自立した生き方が見直され、手仕事に携わる若者が増えているという。「成長と発展に傾いていた振り子が、やっと本来の姿に戻ってきたのかな」

 料理の腕と飾らない人柄に引かれ、職人館には詩人の谷川俊太郎さんやミュージシャンの小室等さん、アコーディオン奏者のcobaさんらが訪れ、それぞれと詩や食に関する共著がある。「表現の仕方は違うが、みんな職人みてえなもんだから気が合うんだよ」と笑う。(土屋弘)