仙台育英の森、左手の兄のグラブは宝物 もっと前へ踏み出せる気が…

武井風花
[PR]

 18日、第104回全国高校野球選手権大会準々決勝、愛工大名電2―6仙台育英

 仙台育英の三塁手、森蔵人(くらと)君(3年)のグラブには「玄人(げんと)」と刺繡(ししゅう)されている。2歳上の兄の名前だ。

 東陵(宮城県気仙沼市)の内野手だった玄人さん(19)は3年生の夏、コロナ禍で宮城大会が中止となり、甲子園の道を閉ざされた。県高野連が独自に開いた大会が終わり、寮から自宅に戻ってきた兄に頼んだ。

 「玄ちゃんのグラブで、俺も3年間がんばりたいから、貸してくれない?」

 突然の頼みに玄人さんは驚いた様子だったが、「このグラブで甲子園に行ってくれよ」と渡してくれた。少しうれしそうだった。

 玄人さんが実家を出た後も、帰省のたびに近くのグラウンドで守備の練習につきあってくれた。ボールを体で止めようとする森君に、「バウンドが合わないときは、2、3歩前に出て捕るようにするといい」とアドバイスしてくれた。

 森君はもともと繊細なタイプだ。毎日の練習の後、グラブの汚れを落として、オイルを塗る。丁寧に作業をするうち、心が落ち着く。「明日も頼むぞ」と枕元に置いて寝る。兄の努力が刻まれたグラブがあれば、もっと前に踏み出せる。

 今春、主力選手がけがに見舞われ、スタメンに起用された。夏に背番号5を手にすると、真っ先に玄人さんに報告した。

 甲子園4強入りがかかったこの日の試合。初回、先頭打者の打球が森君の前に転がり込むと、兄のグラブでしっかりつかんで、アウトに仕留めた。犠牲フライで先制点を奪うなど、守備だけでなく攻撃でも貢献した。

 「このグラブをつけていると、守備がもっとうまくできる気がする」。手になじんだ宝物のグラブとともに過ごす夏はまだ終わらない。(武井風花)