性的少数派の立場で感じた壁 職場でカミングアウトした厚労省の職員

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藤野隆晃
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 鏡を見るのが苦手だった。写真にも、できる限り映りたくなかった。「私じゃない誰かになりたい」と、思い続けてきたから。

 厚生労働省職員の桝井千裕さん(32)は、かつて、自信を持てずにいた。

 神奈川県で生まれた。幼い頃から手裏剣など、「男の子らしい」遊びが好きだった。「将来の夢は総理大臣」と言うと、家族から、女の子には無理と返された。男の子になりたいと思っていた。

 世の中の幅広い物事に関わりたいと、大学卒業後、厚労省に入った。男社会の霞が関に、少しでもなじもうとした。男性のようにバリバリ働きつつ、結婚し、子どもを生み育ててほしい――。周囲からはそんな期待をかけられていた。

 無理にやせようとしたり、化粧をしたり。けれど、誰かを好きになれなかった。「普通」になれず、周囲の期待に応えられないことが、苦しかった。

 転機は2019年、英国に留学していた時のこと。現地で見た番組に、「ドラァグクイーン」と呼ばれる「女性」の姿でパフォーマンスをする男性が出ていた。その姿をしている理由を問われ「たくさんの人が『ジェンダーの箱』の中で苦しんでいる。箱の外に出て良い、と伝えたいから」と答えていた。

 男女の二元論で悩んでいた自分も、「箱の中」で苦しんでいた。だからつらかったと気づかされた。

 この「クイーン」について、他の人とも語り合いたい。そう考え、SNSを巡っているうちにある日本人と出会った。

 その人には「クイーン」の話題だけでなく、周囲の期待に応えられないこと、自分に自信がもてないことといった悩みも素直に打ち明けられた。人を好きになったことがないと相談すると、人を好きになりにくい「デミセクシャル」という性的指向もある、と教えてくれた。「箱の外」にある世界を教えてくれる姿に、ひかれていった。

 やり取りを続けるうちに、その人は女性でレズビアンと知る。その頃には、恋心を抱いていた。自分が、性別にとらわれず人を好きになる「パンセクシャル」であると自覚した。

 「付き合ってほしい」と伝えた。だが、日本では同性婚は法的に認められず、理解のある人が多いとは言えない。「あなたを不幸にしたくない」と断られた。

 それでもめげなかった…

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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2022年8月23日21時2分 投稿
    【視点】

    僕の厚労省時代の同僚の桝井さんのインタビュー記事。彼女がイギリスに留学する前、一緒に仕事をしていた。 その頃は、記事にあるように彼女自身もパンセクシャルということを自覚していなかったし、僕もよく働いてくれる明るい後輩という感じでみてい

    …続きを読む
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