第1回「助けてくれ」笑顔の男の頼みごと 私は北朝鮮で「スパイ」になった

有料記事

牧野愛博
[PR]

 5月のソウル。待ち合わせた場所に、白髪を短く刈り上げた初老の男性が現れた。男性の名は金東哲(キムドンチョル)(69)という。

 韓国系米国人の金氏は、2015年10月に北朝鮮で当局に拘束され、18年5月に解放されるまで「囚人429号」として抑留生活を送った。「米国と韓国の双方から依頼を受け、情報収集の活動を行った」とされた。

 米トランプ政権が、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記との史上初の首脳会談へ向けた交渉の中で、解放にこぎつけた3人のうちの1人。北朝鮮は会談で米側の譲歩を勝ち取るために解放に応じたとみられる。ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に降りたち、トランプ氏に迎えられる姿は、世界に報道された。

 これまで、米国メディアなどでも自らの「スパイ」とされた数奇な体験を語ってきた金東哲氏。米韓などは訪朝した人物から情報を集めたり、北朝鮮内に協力者をつくったりしている模様だが、その詳細は明らかになっていない。金氏に取材を申し込んだのは、改めてその証言を記録しておこうと考えたからだ。

【連載】囚人429号 北朝鮮に捕まった男

北朝鮮で暗躍した末に2年半を獄中で過ごした米国籍の金東哲氏。米朝の交渉の末に解放され、トランプ大統領と並ぶ姿が世界に報じられた。なぜそんな数奇な境遇となったのか。その証言を刻んでいく。

 金氏が語り始める。

 韓国生まれで1980年から…

この記事は有料記事です。残り2123文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

連載囚人429号 北朝鮮に捕まった男(全2回)

この連載の一覧を見る