第3回救われたから、今しかないから 青年たちは逆風をつく 7月・本稽古

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井上秀樹
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 「文化芸術は不要不急」

 新型コロナウイルスが最初に感染拡大した2020年春、演劇界では上演を決行する劇団や劇場が少なからずあった。その結果、電話やSNSで、冒頭のような激しい誹謗(ひぼう)中傷を浴びた。

 2年半経った現在、そうしたバッシングはほぼ見かけなくなったが、コロナ感染は小康状態と拡大を繰り返す。PCR検査や消毒などの防止策を徹底しても、出演者やスタッフの感染による公演中止が相次ぐ。

 先の見えない中で、仲代達矢が率いる「無名塾」に飛び込んだ新人たち32期生は、なぜ役者をめざすのか。

厳しい役者修業で知られる無名塾に、5年ぶりの新人が入りました。舞台公演もままならないコロナ禍、若者たちは何を懸けるのか。オーディションから「いのちぼうにふろう物語」の初舞台まで、青春の緊張を見つめます。

 早川留加(23)が口火を切った。「僕は、逆にこの時期だからこそ必要なのではないかって、ずっと思ってやってきたんです」

 中学生の時、サッカーで腰にけがを負い、数カ月入院した。細身の体形は肉がつき、授業に追いつけなくなった。学校で孤立し、いじめにも遭った。

 病院のベッドでは映画や演劇のDVDを見続けた。退院後はリハビリの合間に劇場へ向かった。「自分の居場所というか、生きててもいいのかなと思えた。虚構に救われた、つらい時に触れた経験が、自分を突き動かしている」

 大学生になり、仲間と劇団を作った。今年2月、自身が脚本と演出を手がける公演が、すべて中止になった。友達とアルバイトで稼いだ金で劇場を予約し、広告をつくった。初日の開演2時間前、楽屋で打ち合わせ中、出演者の1人が陽性とわかった。出演者の全員が濃厚接触者になった。絶望感を味わってもなお、「自分自身、芸術に救われた。人に会えないとか、つらい、苦しい時にこそ、芸術の力は輝くんじゃないかな」と信念を固めている。

 川下千尋(20)は、高校卒…

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