動物園の活動目的を「生物多様性の保全」と定義した、全国で初めての動物園条例が6月、札幌市議会で可決、成立した。条例では「動物福祉の確保」なども掲げられていて、これまで世界の流れから取り残されてきた日本の動物園のあり方に一石を投じそうだ。制定に至った経緯や課題を取材した。
1頭のマレーグマの死がきっかけだった。
2015年7月25日、札幌市円山動物園(同市中央区)で雌のマレーグマ「ウッチー」が死んでいるのが確認された。同園によると前日、同居訓練中だった雄の「ウメキチ」と約20分にわたり争っているのが目撃されていた。肋骨(ろっこつ)4本が折れたことによる内臓損傷が死因だった。この事故を受けて同園は翌月、札幌市動物管理センターから「闘争発生を避ける適切な措置を講じなかった」「闘争時の負傷について適切な診療や措置を講じなかった」などとして改善勧告を受けることになる。
「ウッチーの事件で、円山動物園を巡る状況は一変した」。動物園条例検討部会の委員長を務めた金子正美・酪農学園大教授(環境情報学)はそう振り返る。動物福祉への基本的な配慮に欠けていたことを反省し、獣医療体制を強化したり、動物の負担を軽減できるよう休園日を増やしたりと、同園は次々に手を打った。19年3月には開園100年目にあたる50年に向けた基本方針「ビジョン2050」を策定し、動物福祉への配慮を動物園運営の根幹に据える姿勢を打ち出した。
条例策定の機運が、ビジョン…