第2回35歳で支店長になった「真逆の男」 その矢先に融資先は夜逃げした
超低金利に人口減少、そしてコロナ禍。多くの金融機関が守りを固めるなか、19期連続で増収を続ける信用組合がある。「怪物」と呼ばれるその男は言い続ける。「リスクを取って、腰をぐっと入れて融資しろ」
7月、広島市内で開かれた「中国ブロック信用組合協議会」。会長で、広島市信用組合理事長の山本明弘(76)は、中国地方の信組トップらを前に危機感をあらわにした。
「コロナ禍に加え、ウクライナ侵攻、原材料高騰で地域の中小零細の経営は厳しくなっている。少しずつ倒産が増えているが、まだ助走に過ぎない」
そして、こう続けた。
「この厳しい時でもリスクを取って、中小に寄り添った支援をしていかないといけない」
協議会には、もう一人の山本がいた。副会長の山本国春(74)。岡山県の笠岡信用組合理事会長だ。「広島の山本さんは他の金融機関の正反対を行く。いまはメガバンクも含め、守りを固めるだけのお公家集団のようだが、山本さんは今こそチャンスと捉えている。私も全く同じ考えだ」
この20年、多くの金融機関が自らリスクを取って融資することに消極的になった。貸し倒れによる損失を信用保証協会が肩代わりしてくれる融資に頼り、企業の成長性を見極める目利き力が弱まったといわれる。その一方で、投資信託や保険などの金融商品を売り、手数料収入を得てきた。
ハイリスク・ハイリターンの金融商品をめぐるトラブルも相次ぎ、私はその実態を取材してきた。
《リスク・手数料、足りない説明 多額の損失》
《「ばくちみたいな商品を売られた」 中小、銀行に怒り》
こうした記事を書きながら、金融機関の役割とは何なのかと疑問を抱いた。そんな私の取材に、山本は「我々は金融商品は絶対に売らない」と言い切った。「未来の相場を予想することは難しい。お客が損をするかもしれない商品は、中小零細を支援して育てる地域の金融機関が売るべきではない」
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「金融商品は売らない」。金融機関のトップがそう言い切ったことに記者は衝撃を受けます。密着取材を通して浮かんだ「真逆の男」の過去とは。
山本の考え方はどのように形づくられたのか。原点にあるのは、数々の苦い経験だ。
54年前、広島市信用組合に…
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